本書の主人公は穐田誉輝(あきたよしてる)だ。穐田は新卒でベンチャーキャピタルのジャフコ グループに入社した後、投資育成会社のアイシーピーを設立し、カカクコム、クックパッド、ロコガイドの代表を経て、現在はくふうカンパニーの代表執行役を務めている。
話は穐田が高校入学を目前にした1984年にさかのぼる。穐田は毎日のように秋葉原の電気街を歩き回り、ステレオのコンポーネントの価格を調査していた。予算は30万円。名門高校合格を条件に、父親に交渉して手に入れた金額だった。
ステレオを調査する際には、価格だけでなくスペックにもこだわった。音質や性能、外見、汚れの有無も徹底的に調査した。
1カ月以上の調査の末、やっとステレオを手に入れたが、ステレオの電源を入れたのは数えるほどだった。穐田が好きだったのは、音楽を聴くことではなく、買い物と価格調査だったのだ。
大学3年生から始めた就職活動にも、ステレオ調査と同じくらいの情熱を注いだ。だが、業種を問わず100社ほどを訪問してわかったのは、大半の会社は穐田の目的には合わないということだった。穐田の目的は起業のためにキャリアを積むことだったが、日本の会社が採用したいのは終身雇用を望む人間だったのである。
最終的に選んだ就職先は、ベンチャーキャピタルの日本合同ファイナンス(現・ジャフコ グループ)だった。起業に必要な知識やノウハウが身につくと思ったからだ。
日本合同ファイナンスでの仕事の9割はテレアポと飛び込み営業だった。100回電話をかけて、ひとりかふたりの社長と会えれば上出来で、100件の事務所に飛び込みをして、数件会ってくれればまあまあの成績だ。
断られ続ける日々でも仕事を続けられたのは、企業研究が好きだったからだ。新しい会社を見つけるのは楽しかった。日本合同ファイナンスには3年間在籍した。
日本合同ファイナンスを去る前年、穐田は人生を変えるレポートに出会う。1995年の夏に野村総研が出した、インターネットによって社会は劇的に変わるという主旨の『米国に見るダイレクト・マーケティングの展開』だ。インターネットの使い方を理解した穐田は、中古車買い取り業のジャックに転職する。
当時、中古車の買い取りマーケットは拡大の一途をたどっていた。中古車に限らず、カカクコムのパソコンや食べログの飲食店など、穐田の選ぶジャンルは一貫して、マーケットが拡大したり多様化したりしているものなのだ。
穐田はジャック入社後すぐ、インターネットを使った中古車のダイレクト・マーケティングに取りかかった。
最大の功績となったのは、「ジャックネット」という仕入れシステムを構築したことだ。それまで、車を売りたい人は、自分の車の買い取り相場もわからないまま、車を買い取り企業の店舗まで持っていかなくてはならなかった。
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