起業参謀(メンター)とは、「外部からスタートアップを支援するだけでなく、スタートアップのCXO(Chief X Officer)として、いわば起業家の右腕になるような存在」である。起業ブームによって起業家の数が増える一方で、大きな成長を支える優秀な起業参謀が質量ともに足りていないのが日本の現状だ。
起業参謀は、「起業家の視座を拡大/整理してアドバイス/メンタリングを行う」ことで、さまざまな視座を行き交いながら起業家を成功へと導く。圧倒的な行動量を持っている起業家であっても、物事を自分に都合良く捉えたり、自分に似た人からターゲットを広げられなかったり、過去の成功体験に固執したりと、さまざまなバイアスに陥るものだ。その起業家を支え、メンタリングを通して「明日から、何を、いつまでに、誰と、どうするか」という現実的なアクションに落とし込んでいくのが、「What型」人材の起業参謀である。
起業参謀は、MBAや会計士などの「専門家」によって担われてきたが、それらに関わる知見は既存事業の文脈において役立つものであり、「ゼロイチの戦略構築」に対するものではない。「スタートアップ型の事業の立ち上げ方」と「既存の事業の持続的な成長のさせ方」はルールが全く異なる。
この2者の大きな違いは「フェーズ感」にある。スタートアップではPMF(プロダクトマーケットフィット)、すなわち「市場で顧客から熱狂的に愛されるプロダクトを実現すること」が重要なマイルストーンになる。多くはPMFの達成で躓くため、起業参謀には「新規事業をPMFに導く知見」が必須といえよう。具体的には、「それまで定性的にやってきた事業を定量的に検証」し、「PMF後にスケールするための仕組み化と標準化」を行うことだ。そのために必要なマインドやスキルを本書では解説している。
PMFを達成できる新規事業やスタートアップの最終目標は、「『勝ち続けていく仕組み』を作ること」である。長期的に勝ち続けるためには「オセロの四隅を取る」、すなわち徹底的に「ムダ」をなくすことだ。
本の販売から始まったAmazonは創業2年目にAmazonレビューを実装した。出版社側はマイナス評価を避けたいので、短期思考で考えれば悪手に見える。しかしジェフ・ベゾスは、そうして購買基準を与えればUX(顧客体験)が向上すると考えていた。実際、顧客が膨大な書籍の海で迷うことが減って売上につながり、これを元手に社員数や仕入れ数が増えた。そうして事業が拡大すれば、1回のトランザクション(商取引)のコストが下がる。顧客の選択肢と満足度も増え、さらにユーザーの購入データが蓄積され、レコメンドの質と量が向上していく。
こうしたポジティブループによってビジネスを強化することこそが、「オセロの四隅を取りにいく戦略」なのだ。企業参謀は、事業への高い構造理解度を背景にこのような戦略の示唆出しを行っていく存在である。
ミッションドリブンだからこそバイアスにかかりやすい起業家を複眼的にサポートするために、著者は「5つの眼」という考え方を提唱する。「鳥の眼」「虫の眼」「魚の眼」「医者の眼」「人(伴走者)の眼」だ。順を追って解説しよう。
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