2000年前後のITバブル期においては、年間の上場企業数は203社に及び、多くのベンチャー経営者がIPOにより膨大な富を得るも、ITバブルが崩壊。その後はITという分類は投資家から避けられるようになる。
リーマンショックで2009年にはIPO数が19社まで落ち込むが、2014年には80社程度に回復し、ベンチャー環境の改善が進んでいるように見える。しかし、まだ日本で起業することは依然としてハードルが高い。
ベンチャー企業で事業化ができていないシード期では、そのフェーズを支援する個人エンジェル投資家が十分育っていないため資金調達が困難だ。また、銀行からの融資では原則個人の不動産が担保になるなど、会社と個人のリスクが同一となってしまう。さらにベンチャー・キャピタルから資金提供を受け、送り込まれた取締役の要求への対応に四苦八苦するベンチャーも多い。
その他にも、資金繰りが事業の存続を決めるというプレッシャーから、ワークライフ・バランスとは無縁となり、年間稼働日数が360日になるような例もあるなど、四六時中事業のことを考えることになる。
このように日本の起業家は、今もなお決して良好ではない起業環境に直面していると言える。
そのようなベンチャーを取り巻く過酷な環境を救うべく、モーニングピッチは創られた。毎週木曜日の7時~9時という早朝に、ベンチャー経営者5名が企業の事業開発担当者やメディア関係者などに、事業のプレゼンテーションを行うというものだ。2014年8月時点で既に累計300社のベンチャーが登壇しているという。
この場を野村證券という大企業が支援をすることで、ベンチャー企業の信用を補完するという意味は大きい。今では、ニコン、ホンダなどの老舗企業や、国会議員や経済産業省の官僚も参加するようになり、国を挙げての取り組みになっている。この流れで他証券会社もベンチャー支援のイベントを積極的に開催するようになり、今、日本中を動かすムーブメントになりつつある。
野村證券はこの場も活かしてIPOの主幹事を獲得するなど、実際の事業への貢献も進んでいる。そのような意義の大きいモーニングピッチは、当時27歳の塩見氏が、会社は異なるが同じ志を持つ2人と手を組み、会社も巻き込みながら日本経済全体のムーブメントにしたシンボリックな事例なのである。
いま勤めている会社に毎日の仕事をやらされている、と思っていないだろうか。塩見氏も入社当時、会社にいるのが苦痛で外交に行ってきますと言い出かけ、カフェや公園のベンチで休んでいたこともあったという。ただ、冷静に考えれば「会社」「仕事」「毎日の行動」の全ては自分で選択したものである。
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