私たちの生きる時代は、2つのベクトルのせめぎ合いの時代としてとらえることができる。第一のベクトルは「スーパー資本主義」「スーパー情報化」という方向だ。デジタル化によって「効率化」が進み、人々はその利便性を享受してきた。しかしながら、それはスピードと利潤をめぐる極端な競争の幕開けでもある。極端な効率化は格差の拡大、エネルギーの争奪戦という副作用をもたらし、結果として気候変動と環境危機が加速していった。
第二のベクトルは「ポスト資本主義」「ポスト情報化」という方向である。これらは人々が環境の有限性に関心を向け始め「限りない成長」よりも「持続可能性」を踏まえた経済社会のあり方を志向し、それに伴い社会の構造や豊かさの意味を再考するような動きである。
我々が「科学」と呼ぶものは、17世紀以降同時代に生成した資本主義と相互的に影響を与えながら車の両輪のように展開してきた。本書では、科学と資本主義、ポスト資本主義を総合的に構想し、科学と社会の新たなビジョンを提案することを目的とする。
科学とはそれが独自に発展していくのではなく、その時代の経済社会と密接にかかわり合いながら進んでいく。ここでは資本主義との関わりに注目しながらその流れを追っていこう。
我々が「科学」と呼んでいるものは実質的に「西欧近代科学」を指している。近代科学はヨーロッパで勃興し、それと並行するかたちで資本主義も本格的に始動した。これらを通じてヨーロッパの世界制覇が展開していったのがこの時代である。
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