進化思考[増補改訂版]

生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」
未読
進化思考[増補改訂版]
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生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」
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進化思考[増補改訂版]
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出版日
2023年12月31日
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おすすめポイント

時代を変えるほどの革新的なイノベーションの創造は、生まれながらにして才能に恵まれたほんの一握りの天才だけに可能なことであり、その他大勢の凡人には無縁なことだ。イノベーションや創造について、そのようなイメージを持つ人も多いはずだ。しかし、本書では、創造とは天才だけに可能な「秘密の魔法」ではなく、誰もが再現できる習得可能な技術だと説明されている。それを可能にするのが、「進化思考」だ。

進化思考とは、自然界における生物の進化のあり方に着想を得た、創造のための思考の方法である。生物の進化論を社会や人間の理解のために応用することは、ダーウィンの時代から存在する古典的な方法だ。それでもなお、「進化思考」が新しいのは、その発展的な応用にある。自然界の進化プロセスや選択の過程を創造にそのまま適用するのではなく、深い洞察と緻密な調査を合わせることで、創造のための手法へと昇華している。だからこそ、本書では自然界の進化について膨大な事例が紹介されている。生物進化へのイメージを掴むためにももちろん有用だが、デザイナーである著者が新しいデザインを生み出すためにどのような思考プロセスをたどっているのかを豊富な事例とともに知ることができるのは本書ならではである。

なによりも、自然界の進化と創造の過程に対する著者の純粋な探究心、溢れ出る喜び、そしてそれを描き出す瑞々しい感性や発想からも、学べることも多い。「創造」に関わるすべての人におすすめできる一冊だ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

太刀川英輔(たちかわ えいすけ)
デザインストラテジスト、NOSIGNER 代表、JIDA(日本インダストリアルデザイン協会)理事長、WDO(世界デザイン機構)理事
明日の希望につながるプロジェクトだけを手掛けるデザインファームNOSIGNER の代表として、気候変動の緩和や適応、再生可能エネルギー、防災、地域活性などの社会課題に取り組む。
主なプロジェクトに、ADAPTMENT、OLIVE、東京防災、PANDAID、山本山、クールジャパン提言、横浜DeNAベイスターズなどがある。
建築、プロダクト、グラフィックなどを越境する総合的なデザイナーとして、グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞、ドイツデザイン賞金賞ほか、国内外で100以上のデザイン賞を受賞。また多くの賞の審査員を歴任する。
生物の適応進化から創造性の本質を学ぶ「進化思考」を提唱し、第一版の本書(2021年出版)において人文科学分野を代表する学術賞「山本七平賞」を受賞。ベネッセ教育研究所の「高等教育の未来を考える会」座長を務めるなど、創造的な教育の普及を進める。
2021年には日本で最も歴史ある全国デザイン団体JIDA(日本インダストリアル
デザイン協会)の理事長に就任し、世界デザイン会議の34年ぶりの日本開催などに貢献。
2023年からは国連の特殊諮問機関であるWDO(世界デザイン機構)の理事を務める。

本書の要点

  • 要点
    1
    高い創造性を持つ天才とは、変異と選択を繰り返す思考を身につけている人のことだ。その方法を身につければ、創造性は誰もが再現できる習得可能な技術となる。
  • 要点
    2
    自然界に存在する無数の優れたデザインは、進化のプロセスを経たことで生じたものである。「進化思考」は、創造を擬似的な進化として捉え、「偶然の変異」と「必然の選択」の往復を繰り返し、高い創造性の発揮を目指す。
  • 要点
    3
    変異的思考と選択的思考を意識的に繰り返すことで、誰も到達しなかった価値あるアイデアを創造できる可能性が高まる。

要約

【必読ポイント!】 創造と進化

創造性は誰もが習得可能な技術である

地球や社会が限界を迎えそうなこの時代において、答えを導き、困難を解決するために必要とされるのが、創造力だ。創造力の謎を解き明かす鍵は、生物の進化にある。天才と呼ばれる人たちの高い創造性について俯瞰してみると、「バカさと秀才さ」や「変化と選択」のような、2つの異なる性質の往復によって発揮されるのではないかという仮説が浮かび上がる。天才たちは、狂人的な変異的思考 を全開にして前例のない発想を生み出すと同時に、秀才のような選択的思考によって取捨選択をしている。天才とは、変異と選択を繰り返す癖を身につけた人のことであり、この思考の往復こそが、創造的思考なのだ。この構造を前提とするならば、創造性は天才だけが備えた秘密の魔法ではなく、誰にとっても実習可能な技術となる。

偶然と必然から生まれる「デザイン」
著者提供

よいデザインを「形が導く美しい関係性」のことだとするならば、生物の進化における適応に、その実例が無数に存在する。生物の進化は、誰かが巧妙にデザインして生まれるのではなく、ダーウィンが提示したように、変異と自然選択によって生み出される。つまり、よいデザインは自然発生しているのだ。進化とは、単に性質が改良されることではない。生物の性質が、世代を経て次第にその頻度を変化させた結果、累積的に変化することである。複製のエラーによって偶然生じた変異と、環境の中で子孫を残すために有利な形質が自然選択される仕組みが、遺伝によって何世代も繰り返され、徐々に個体が状況に適応したものに変わっていく。この現象こそが、適応進化のプロセスである。

ダーウィン以前は、進化は神や生物の意思によって生じると考えられていた。これは、創造は個人の才能によるものだと諦める思考によく似ている。ダーウィンが自然選択説によってこの前提を覆したように、創造性の前提を疑ってみよう。考えてみれば、私たちは意図的に発想を生み出すことができない。それに、自分のアイデアに驚かされることもあるはずだ。創造とは、自分が驚くほどの偶然による現象であり、状況の必然性によって選択される現象なのだ。意図を超えた偶然の変異と、必然性による選択を往復する進化的現象として創造をとらえることに、創造力の鍵がある。どうすれば創造の変異的偶然が加速し、選択の必然性を高められるのかがわかれば、創造の発生確率を上げられるはずだ。

創造の方法としての進化思考
著者提供

生物は、自分の身体を望むように進化させることはできないが、ヒトは道具を創造して行動を激変させることができる。たとえば、箸は食べ物をつかむために指を、望遠鏡や顕微鏡は見えないものを見るために目を拡張した道具だと説明できる。道具を創造する力は、身体を拡張する疑似進化的な能力であり、創造とは、モノを適応的に「進化」させる能力であるといえる。しかし創造という現象もまた、多様な適応を作り出すという意味では、進化によく似ている。むしろ創造という人間の能力に類似する現象は、自然界の中で生物の進化以外に存在するのか。

文化進化論や社会進化論では、文化と進化の類似性が指摘されており、社会やテクノロジーの進化を自然の進化との対比で浮き彫りにしようとしていた。しかし、これらの議論には、「進化のプロセスを創造的な発想に活かす具体的な手法(HOW)」を提示するものはなかった。また、これまで提示されてきた、「創造のための具体的な手法」で、創造を自然現象として説明可能な形で論じたものはほとんどなく、「なぜその発想法で私たちが創造できるのか(WHY)」、「なぜ進化と発明は似ているのか」という問いに答えてくれるものもない。

それに対して、進化思考は、創造を進化的現象として捉え、偶然の発生確率を高めて、観察によって必然的な選択を導くことで、自分の意思を超えた発想をもたらそうとする方法である。変化のために偶発的アイデアを大量に生み出す発想手法としての「変異的思考」と、自然選択圧を模倣して観察から必然的な選択を導く手法としての「選択的思考」という2種類の思考の往復によってモノを進化させる。

エラーによる変異が多様性を生み、その中から必然性によって選択されたものがより適応したものとして生き残り、その形質が遺伝して次世代の変異につながるというサイクルは、生物進化と創造的思考に共通している。

創造性を進化的現象と捉えるならば、偶然的な変異の発生確率と、必然的な選択の精度、その繰り返しの頻度の問題と説明でき、このサイクルを回していけば、やがて偶然と必然が一致して創造性が発揮される瞬間が訪れる。2つの思考の往復を繰り返せば、誰もが創造の道のりをたどれるようになり、創造の発生確率を大きく上げられるようになるだろう。

変異——偶然の可能性

進化は変異から生まれる

多くの人は序盤に出たアイデアが最良だと思い込み、発想を捨てることを躊躇って可能性の幅を狭めてしまう。本当に創造的な人は、より良い方法のために自分のアイデアをすぐに捨て去ることができる。失敗や変異的なエラーがなければ、自然選択による適応進化としての成功もないのだが、私たちは失敗を悪しき経験として捉えて、挑戦を躊躇してしまう。

予測不能な変化を起こす人はこれまでの教育では評価されてこなかった。しかし、変化を起こす人を育ててこそ、新しい価値を生む人が現れるのだから、学校ではたくさんの失敗から解を導く力を養うべきだ。真に創造的な人になろうとするなら、大いにバカになる練習をしよう。

進化は進歩ではない

進化はよく進歩と誤解される。実際の進化は、たくさんのランダムな変異の中から適応的な変化が偶然生まれることだ。つまり進歩のような決められた方向性を持たず、目指していたものとは違う適応が生まれることもある。進化思考でも、意思から外れた偶然の変異というランダムな現象として創造を考える。

あらかじめ適応するとわかっている変異はないように、創造でも計画通りに進歩する必要はない。ほとんどの発想は良くも悪くもないものであり、進化は偶然に支配されている。

そして進化は失敗するからこそ生じる。だからバカ性・偶然性を発揮してアイデアを出し、あとから必然的な理由に適ったものを観察から選択できれば、いずれ発想は適応進化する。進化を生み出すためには、失敗を承知の上で、多様なエラーへの挑戦が必要なのだ。

変異のパターン

偶然的変異のパターンには、言語的なエラーのパターンを見出すことができる。

生物の進化と人間の創造のパターンに見られる類似はDNAと言語の構造が類似しているからではないか。大きさや形が極端になる「変量」、別のものを真似る「擬態」、標準では備わっているものがなくなる「消失」、部位の数が極端に増える「増殖」、より適した場所への「移動」、本来の備わっているものを別のものに入れ替える「交換」、部位を別々の要素に分ける「分離」、元のあり方とは真逆になる「逆転」、別々のものが混ぜ合わされる「融合」。

創造の変異もこれらのパターンに則って生み出すことができる。いわばバカになるためのルール、発想の型であるこれらのパターンは、生物進化によって獲得された表現型にも似ている。進化思考の変異の探求では、生物の突然変異や発明的な創造に共通するパターンを応用して、バカな発想の練習をする。パターンさえ習得すれば、決して難しいことはない。むしろとても楽しいプロセスだ。

失敗を恐れずに常識はずれの挑戦をたくさん積み重ねて、進化のきっかけを掴もう。妄想的でも風変わりでも、まずは変化を楽しむことで、思考に多様性が生まれ、選択の幅が広がるはずだ。

選択——方針の自然発生

選択圧の時空間観察
著者提供

変異的な思考から生み出された多様性が、選択圧によって淘汰され、より適応した状態へ近づき、それを何度も繰り返すこと。これが進化思考における創造力の前提となる。必然的な選択のためにまず必要なのは、思い込みを捨てることだ。自分の意思による選択を手放して、世の中の選択圧や繋がりをよく観察し、必然性のある適応の方向性を探ること。これが選択的思考である。

自然界における進化は、悠久の時間による自然選択によってなされる。しかし、創造においては時間の経過を待つ余裕はない。だからこそ、必然的な選択圧を感じ取る観察力が問われるのである。進化思考では、観察において我々は時間と空間を観察することしかできない、という前提から、あらゆる観察の体系を自然科学の基礎に則り、「時空間観察」として体系化した。空間の内部を「解剖学(解剖的観察)」、外部を「生態学(生態的観察)」、過去を「歴史学(歴史的観察)」、未来を「未来学(予測的観察)」として、「時空間観察」の体系を構造化した。

この「時空間的観察」によって、これまで生命科学が適応を観察してきたように、創造においても様々な選択圧が観察可能になる。4つの観点で適応を分析すると、時間的・空間的にもれなく関係性を考察できる。まず目に見えるものを分解するように解剖的観察から始め、次にすでに知られている事実を学ぶことで歴史的に観察する。これらをもとに、モノやヒトの繋がりに対する生態学的な観察をする。これらの3つの観察は未来の予測の精度を上げてくれることだろう。

「自然は創造がうまい」のはなぜか
著者提供

自然の創造がうまいのはなぜか。それは、人工物の創造よりもはるかに強く多様な選択圧に対して、長い年月をかけて適応してきたからだ。私たちが自然よりも創造が下手なのは、時間的にも空間的にも狭い範囲しか見ようとしないせいだ。何度でも変異を作り直すプロセスの繰り返しを、利便性のために避けてきたのだ。

変異と選択を繰り返し、収斂した先に、創造が誕生する。選択の方向性に適った変異が見つかると、そこに生まれた方向性に名前がつけられ、コンセプトが誕生する。粘り強い思考から見出されたコンセプトは、時代の共感を伴って、社会を変えることさえあるだろう。

進化と創造の螺旋を登る生物が偶然による変異と必然的な自然選択の繰り返しによって進化してきたように、創造性は変異的思考と選択的思考の二項対立のあいだに自然発生する現象だ。この往復が収斂する先に、美しいデザインが発生する。

創造が偶然の産物であるとしても、私たちの自分の意識を使ってその発生確率を高めることができる。新しい創造の種は偶発的な変異に挑戦しつづけてこそ生まれる。アイデア発想法を試したことのある人からはよく、最終的にアイデアを収束できないという悩みを聞くことがある。これは必然的な選択圧を観察していないから起こる問題だ。そして観察は練習できるものなのだ。新しい発想を適切に選択するのは、難しいことではない。時空間観察の4つの軸に従って精査すれば、創造的な強度は確実に磨かれる。創造は、最初から価値が出現するプロセスではない。変異と選択を繰り返すなかで、人は一歩ずつ創造の螺旋の山を登っていく。山頂に向かうにつれて険しさを増し、選択圧はどんどん強くなる。その圧力によってふるいにかけられながら、やがて多くの人が到達できない高さにまで至るかもしれない。雲を突き破って初めて、創造は価値として姿を現す。

この探求は、人生を豊かにする。私たちは創造力の発揮に幸せを感じるように進化してきた。多くの人が幸せに想像力を発揮しながら、生態系との共生が形作られる世界を見ること。それこそが私たち自身が生き残るコンセプトの追求なのだ。

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要約公開日 2024.08.17
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