人生のレールを外れる衝動のみつけかた

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人生のレールを外れる衝動のみつけかた
出版社
出版日
2024年04月10日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は哲学書でありながら『チ。地球の運動について』など、多くの漫画作品が事例として登場する。物語の主人公たちは、私たちが真似できないほどの情熱を持ち、心の底から湧き上がる衝動を糧に行動を起こしていく。そうした羨ましいほどの「衝動」は、私たちにも実装可能だと著者は言う。本書はその衝動を、私たちの人生に実装するための一冊だ。

衝動に突き動かされた人を実際に目の前にしたとき、私たちは「え?なんでそんなことを、そんな熱量で?」と思うことがある。しかし実際に本人に理由を聞いても、それっぽい理由はあるのに、どことなく腑に落ちない場合がある。それもそのはず、他者にも理解しやすい社会的なインセンティヴやメリットなどは二の次で、彼らを突き動かす衝動は本人だけのものなのだ。

本書では「衝動」を「自分ではコントロールできないくらいの情熱」と定義する。現代は「逆算思考」や「キャリアデザイン」をはじめ、いわゆる「自分の人生を自分でコントロールする」考え方が優勢だ。そんな時代において、自分でも制御できないほどの情熱は、むしろ邪魔になりそうだ。だが著者は、「衝動」こそが自分自身を解き放ち、まだ見ぬ可能性へと突き動かす原動力になると力説する。

みんなと同じレールに乗っかってきたけど「なんか違う」と思っている人、「将来の夢」を聞かれたら、いつもテンプレ通りに答えている人。そんな人は、ぜひ本書を開いてほしい。自分でも驚くような「自分」に出会えるはずだ。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

谷川嘉浩(たにがわ よしひろ)
1990年生まれ。京都市在住の哲学者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。哲学者ではあるが、活動は哲学に限らない。デザインの実技指導に携わるだけでなく、メディア論や社会学といった他分野の研究や、ビジネスとの協働も度々行ってきた。著書に『スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理』(人文書院)、『信仰と想像力の哲学』(勁草書房)、『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』(さくら舎、共著)、『〈京大発〉専門分野の越え方』(ナカニシヤ出版、編著)など。翻訳にマーティン・ハマーズリー『質的社会調査のジレンマ』(勁草書房)、シェリル・ミサック『真理・政治・道徳』(名古屋大学出版会)。

本書の要点

  • 要点
    1
    衝動とは、「自分でもコントロールしきれないくらいの情熱」だ。衝動は世の中の理屈や予測可能な未来を吹き飛ばし、私たちをどこかへ連れて行く力がある。
  • 要点
    2
    衝動とモチベーションは似て異なる。衝動には合理的な説明では回収できない過剰さや、極端な持続性が含まれる。
  • 要点
    3
    衝動を見つけるには、自らの「偏愛」を解釈する必要がある。自分は何を楽しみ、何を避けたいと思うのかを「セルフインタビュー」によって丁寧に聞き取ろう。

要約

衝動とは何か

自分ではコントロールしきれないくらいの情熱

魚豊の漫画作品『チ。地球の運動について』では、自分ではコントロールしきれないくらいの情熱を持つ人物が描かれている。

舞台は15世紀のヨーロッパ。主人公のラファウは、世界を斜に見ていて、社会を要領よく渡っていける賢さを持った少年だ。だが色々あって、当時の社会では異端であった「地動説」に傾倒していく。地動説を信じることは迫害や死につながるかもしれない。周囲の人はラファウに天文学関係の書類を燃やすよう言いつけるが、彼はそれを拒否してこう言う。

「僕の直感は、地動説を信じたい!!」

世の中では「要領のよさ」や「立ち回りの器用さ」がしばしば持て囃される。要領のよさとは社会の理屈に従って、そつなく生きることだ。ラファウ自身も、地動説を放棄した方が要領よく生きられることを頭では理解している。それでもなお、理屈では説明のつかない衝動が彼を「地動説の探求」に向かわせている。

衝動とは、「自分でもコントロールしきれないくらいの情熱」であり、世の中の理屈や頭で考えた予測をすべて吹き飛ばし、私たちをどこかへ連れて行ってしまうものなのだ。

衝動は「幽霊」のようなもの
BrianAJackson/gettyimages

衝動はどこか「幽霊」に似ている。人は幽霊に取り憑かれると、自分の望みにかかわらず、意思決定や判断を幽霊にコントロールされる。ラファウも命を危険にさらしたくなかったはずだが、その思いを突き抜けて地動説にひた走っていく。

衝動は「将来の夢」や「本当にやりたいこと」を突き抜けて、それ以上の熱中へと誘ってくれる欲望だ。子どもの頃に「将来の夢は何?」と聞かれて、大人が喜びそうな回答をした経験はないだろうか。あるいは「そんな夢は無理だね」と言われて、気持ちを押し込めてしまったこと。つまり「将来の夢」とは、周囲の人や世間が考える範囲内の「正解」に過ぎないのだ。

「本当にやりたいこと」も要注意である。人が「本当にやりたいこと」として語るものの多くは、世間的に注目されている華々しいものか、今の自分が「正解」だと思っているもののどちらかだ。人は変化していくものである。「本当に」と重たい言葉でくるむことは、変わりゆく自分を固定してしまう危険性がある。

本書で扱う「衝動」とは、メリットやデメリット、コスパ、世間体などとは無関係なところに向かう原動力を指す。そういった意味では「人生のレールを外れる欲望」と言えるかもしれないが、意図的に外れるわけではない。衝動とは、レールがあってもなくても気にせず走っていくひたむきな力なのである。

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要約公開日 2024.08.15
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