自分とか、ないから。

教養としての東洋哲学
未読
自分とか、ないから。
自分とか、ないから。
教養としての東洋哲学
未読
自分とか、ないから。
出版社
サンクチュアリ出版

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出版日
2024年04月23日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は、東大卒で現在無職の著者による哲学エッセイである。著者のしんめいP氏は、東大卒業後に一流企業に入るがうまくいかず、地方移住やお笑い芸人などに挑戦したものの挫折し、離婚して家族も失ったのち布団へと引きこもるという状態に至った。そこで東洋哲学と出会い、虚無感を克服できたという。

登場人物はブッダ、老子、空海などの有名人ばかり。仏教の教えや中国思想は難しいとされる部分も多いが、現代語というよりほとんど口語の超訳によって、その思想がなぜ現代人にも受け入れられているのか、手にとるようにわかる。

その軽快な語り口で、「さとり」とはいったい何なのかという重要なテーマにも踏み込んでいく。偉人たちがどのように「さとり」に至ったのかについての逸話は、ほとんどがぶっとんだ内容である。いかに高名な人物でも、読後にはツッコミどころ満載の親しみやすい人物のように思われてくるから不思議だ。

「本当の自分とは何か」という問いはだれしも一度は考えたことがあるものだが、東洋哲学はこの問いに明確な「答え」を出している。そしてそれは、自分と他人の関係性や、社会とのかかわりのなかに生きづらさを抱えている人をラクにしてくれる。アドラー心理学みたいなものが好きというような方にも、普段は自己啓発書を読まないという方にもおすすめの一冊である。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

しんめいP
大阪府出身。東京大学法学部卒業。大手IT企業に入社し、海外事業で世界中とびまわるも、仕事ができないことがバレてひそやかに退職。鹿児島県にある島に移住して教育事業をするも、仕事ができないことがバレてなめらかに退職。一発逆転をねらって芸人としてR‐1グランプリ優勝をめざすも1回戦で敗退し、引退。無職に。引きこもってふとんの中にいたときに、東洋哲学に出会い、衝撃を受ける。そのときの心情を綴ったnote、『東洋哲学本50冊よんだら「本当の自分」とかどうでもよくなった話』が少し話題になり、なぜか出版できることになり、今にいたる。

本書の要点

  • 要点
    1
    仏教の祖であるブッダが悟った内容は「無我」、つまり「自分とか、ない」という意味である。すべてが変わっていくこの世界で、変わらない「自分」をつくろうとする行いは苦しい。「自分がいる」という慢心をおさえると、最上の安楽が訪れる。
  • 要点
    2
    仏教における「空」の教えは、「この世界はすべてフィクションなのだ」と解釈できる。世界のあらゆるものがなにものでもなくなり、すべてのものはつながっていく。
  • 要点
    3
    「空」の境地にたどり着くための1つの答えが、「言葉をすてろ」という教義に基づく禅である。

要約

【必読ポイント!】 インドの哲学

本当の自分なんて、ない
DonkeyWorx/gettyimages

東洋哲学における最強の哲学者は、ブッダである。ブッダは神ではなく人間だ。ブッダは王家の生まれで恵まれた環境にありながら「虚無感」に本気で悩み、29歳で出家する。

「自分探しの本場」であるインドでは当時、徹底的に身体をいためつけることで本当の自分があらわれると思われていた。ブッダもこの修行を6年間行ったが、「本当の自分」はみつからない。ある日、断食の修行で死にそうになっていたブッダに、近所のギャルがおかゆをもってきてくれた。そこでブッダは、これまでの修行が無になると知りながら、あえておかゆを食べる選択をする。体力と気力が回復し、そのままおおきな木の下で瞑想して、悟りを開いてしまった。

悟ったのは「無我」だ。「自分とか、ない」という意味である。自分とはただの妄想であり、「ほんとうは、この世界は、ぜんぶつながっている」。よく観察すればわかる、とブッダは言う。

たとえば人間の身体の細胞は、3カ月程度ですべて入れ替わるらしい。私たちは過去の写真を見て「自分」を認識できるが、10年前の身体といまの身体は物質的に完全な別物である。また、私たちの身体は食べものという「自分以外」のものからできている。だから、自分といえるものは何もない。これが「無我」である。

実は思考も同様だ。たとえば「カレー食いたい」という思考は、「するぞ!」と思ってするものではなく、勝手にわきあがってくる。その瞬間を観察してみると、思考のことを「自分」とは感じられなくなる。「感情」も同じだ。

だからこそブッダは、人生の苦しみの根本的な原因とは「自分」であるとした。「すべてが変わっていくこの世界で、変わらない『自分』をつくろうとする」のだから、苦しくて当たり前だ。老いという苦しい現実を避けるために若い自分をつくろうとすれば、苦しくなる。

楽になるには、これを受け入れるしかない。ブッダは、自分がいるという慢心をおさえると最上の安楽が訪れる、と語った。この「一番、きもちいい」の境地がニルヴァーナ(涅槃)である。

この世はフィクションである

ブッダと同じインド人である龍樹は、ブッダ亡きあとの700年間におよぶ学者たちの論争によって非常に複雑となった仏教の教えを、超シンプルにまとめた。それが「空」である。

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要約公開日 2024.08.18
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