嫉妬論

民主社会に渦巻く情念を解剖する
未読
嫉妬論
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民主社会に渦巻く情念を解剖する
著者
未読
嫉妬論
著者
出版社
出版日
2024年02月29日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.0
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おすすめポイント

どんな人でも多かれ少なかれ、誰かを妬ましく思ったことがあるだろう。SNSが普及し、他人の暮らしぶりが可視化されるようになってからはなおさらだ。だが嫉妬は善くないものとされているし、なにより苦しい。ゆえに人は嫉妬を感じると、すぐにそんな自分から目を背けたり、嫉妬感情を隠したりしようとするものだ。

嫉妬心はその後ろめたさゆえか、しっかりと正面から見据えて考察されることが少ない感情だった。書籍などで嫉妬を扱う場合でも、いかに逃れるかがテーマになることがほとんどだ。しかし本書はそこからさらに踏み込んで、嫉妬について深く考察していこうとする。著者は本書の第1章で「本書が目指したいのは、この感情の秘密を心の暗部から引きずり出し、そこに光を当てることである」と書いている。

政治思想の研究者である著者、山本圭氏は、哲学を中心とした古今東西の膨大な思想の歴史を紐解き、様々な角度から嫉妬を見つめていく。カントやアリストテレスをはじめ、思想史に名高い哲学者たちがこぞって嫉妬という身近な感情について論じていることを意外に思うかもしれないが、あなたもきっと、彼らが残した「嫉妬論」に共感せずにはいられないはずだ。

本書を読み進めるうちに、嫉妬は、社会や民主主義のあり方と密接に関わっている、現代社会の問題と切り離せない重大な問題であることがわかるだろう。本書を通して、自分の心のあり方のみならず、現代社会のあり方についても、多くの気づきを得られるはずだ。

ライター画像
大賀祐樹

著者

山本圭(やまもと けい)
1981年京都府生まれ。立命館大学法学部准教授。名古屋大学大学院国際言語文化研究科単位取得退学、博士(学術)。岡山大学大学院教育学研究科専任講師などを経て現職。専攻は現代政治理論、民主主義論。著書に『不審者のデモクラシー』(岩波書店)、『アンタゴニズムス』(共和国)、『現代民主主義』(中公新書)、共編著に『〈つながり〉の現代思想』(明石書店)、『政治において正しいとはどういうことか』(勁草書房)、訳書に『左派ポピュリズムのために』(シャンタル・ムフ著、明石書店、共訳)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    嫉妬はありふれた感情だが、他の悪徳と違ってポジティブな要素がいっさいない。誰しも自らが嫉妬に駆られているとは認めたくないし、何より他人にそのことを知られたくないものだ。
  • 要点
    2
    嫉妬は自分と同じだと思える相手に対して向けられる感情だ。相手との距離が近ければ近いほどわずかな差異が目につくようになるため、平等な社会においてこそ、嫉妬心はかき立てられやすくなる。
  • 要点
    3
    民主主義が生き延びるためには、優越願望と対等願望のバランスが重要になる。

要約

嫉妬とは何か

嫉妬の悪名高さ

嫉妬は誰しも心当たりのある感情だ。隣人が高級車に乗っているのを見たときや同期が自分より早く出世したとき、嫉妬心は静かに芽生え、私たちを苦しめる。

嫉妬感情は悪徳の中でもとくに卑しいものとされている。キリスト教の「七つの大罪」に数えられる傲慢、嫉妬、怒り、強欲、怠惰、暴食、色欲の中でも、嫉妬は断トツで悪名高い。嫉妬にはポジティブな要素がいっさい見当たらないためである。

私たちは通常、嫉妬心を隠す。誰も自らが嫉妬に駆られているとは認めたくないし、何より他人にそのことを知られたくない。結果として嫉妬心は自らを偽装することとなる。

嫉妬の定義
Natalia Darmoroz/gettyimages

嫉妬感情はどのように定義できるだろうか。

『広辞苑 第五版』の「嫉妬」の項目には「自分よりすぐれた者をねたみそねむこと」とある。

思想的な観点から嫉妬を定義した言説も見てみたい。カントは嫉妬を「他人の幸福が自分の幸福を少しも損なうわけではないのに、他人の幸福をみるのに苦痛を伴うという性癖」と定義している。つまり、嫉妬する者は、自分の利得を最大化しようとしているわけではない。自分が損をしてでも他人の不幸を願うのだ。

またアリストテレスは、自分と同じだと思える人々が嫉妬の対象となると論じている。確かに、何百年も昔の人や、ビル・ゲイツのような桁違いの富豪を妬む人は少ない。

嫉妬から身を守る4つの戦略

他人の嫉妬の対象にされるのは恐ろしいことだ。とりわけ小さなコミュニティでは、身の破滅につながりかねない。

この点を論じたのが、アメリカの人類学者ジョージ・フォスターだ。フォスターは、人々が他人からの嫉妬を恐れ、防ごうとするとき、その行動には4つの戦略があるとする。

まずは「隠蔽」、妬みの対象となりそうなものを隠すことだ。たとえば大学業界では、自分の就職や異動について、内定段階では公言しないという不文律がある。

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要約公開日 2024.07.27
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