プレゼントには、貰って嬉しいものだけではなく、困るものも多い。友人の悩み相談を聴くときにも似たようなことが起こる。慰めや励ましのつもりで口にした言葉が、かえって相手を悩ませて傷つけてしまうこともある。なぜ善意は空回りしてしまうのか。
たとえば、アンパンマンが自分の身体の一部であるパンを周囲の人に差し出せば、いつもケアが成り立っているように見える。これは、空腹という生命共通の生存課題が基盤にあるからだ。皆が貧しかった時代では、食べ物を手渡すことはケアであり利他だったのだ。
しかし、「多様性の時代」ともいわれる現代では、そうした共通の基盤は少なくなってきている。一人ひとりがそれぞれの物語を生き、これまでの人生で負ってきた個人としての歴史がまったく異なる。一人ひとりの心の「傷」の形が違うからこそ、やさしさのすれ違いも生じるのだ。
多様性とは、一人ひとりの「大切にしているもの」が違うということである。そしてその一人ひとりは、異なる立場を同時にいくつも担っている。さながら一人が複数の役割を演じる複雑な劇のようなものだ。だからこそ、ある立場では正解になる判断が、別の規範に照らしたときにはグレーになる。私たちは場面や役回りを勘違いし、語るべきセリフを間違える。それが時として人を傷つけてしまうのだ。
だが同時に、私たちは劇を変え、演じ直すこともできる。本書では「自分の大切にしているものよりも、他者の大切にしているものの方を優先すること」を「利他」と定義する。そして「その他者が大切にしているものを共に大切にする営為全体」を「ケア」と呼ぶ。
それでは、どうしたら善意の空転を防ぐことができるのだろうか。
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