利他・ケア・傷の倫理学

「私」を生き直すための哲学
未読
利他・ケア・傷の倫理学
利他・ケア・傷の倫理学
「私」を生き直すための哲学
未読
利他・ケア・傷の倫理学
出版社
出版日
2024年03月30日
評点
総合
3.8
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

身近に困っている人や苦しんでいる人がいると、「助けたい」という気持ちが湧き上がってくるものだ。相手が親しい関係にあればなおさらだろう。しかし、助けの手を伸ばすことを、ためらってしまうことはないだろうか。助けを申し出ても断られるかもしれない。助けようとすることで、相手に嫌な思いをさせたり、かえって状況を悪化させてしまったりするかもしれない。そう考えると、本当に助けていいのか迷ってしまう。だからといって、誰も助け合わなくなったら、社会は成立しなくなる。では、どうすれば良いのだろうか。

本書の著者である近内悠太氏は、その著作『世界は贈与でできている』で、贈与の概念を通じて世界の成り立ちをとらえようとした。続く本作では、利他的に他者へ助けの手を差し伸べることの意義や価値について論じようとする。プレゼントを贈る際には相手が喜ぶものを考えるように、誰かを助けるときには、相手にとってなにが大切かを考えなければならない。ときには、自分の大切なものより相手の大切なものを優先しなければならないときがあるだろう。自分の規範を逸脱する必要にもかられるかもしれない。それでも、自分を書き換えるような経験をすることは自分自身を救うことにもつながると、本書は説く。

本書を読むと、他人のために生きることは、自分を犠牲にすることでも偽善でもないと感じられる。他者を想うことが、相手も自分も救うことにつながるのであれば、より多くの人が共に助け合える社会が実現できるのかもしれない。

ライター画像
大賀祐樹

著者

近内悠太(ちかうち ゆうた)
教育者、哲学研究者。統合型学習塾「知窓学舎」講師。著書『世界は贈与でできている』(NewsPicksパブリッシング)で第29回山本七平賞・奨励賞を受賞。
近内悠太WEBサイト
https://www.chikauchi.jp

本書の要点

  • 要点
    1
    利他がすれ違うことがあるのは、現代ではそれぞれの人が大切にするものが多様だからだ。目の前の他者の大切にしているものを共に大切にする「ケア」によって、自分の大切にしているものよりも他者の大切にしているものを優先させる「利他」が実現する。
  • 要点
    2
    自分の大切なものより他者の大切なものを優先させる利他は葛藤が伴う。しかし、既存の規範から逸脱する不合理な利他は信頼を生み出す。
  • 要点
    3
    既存の規範から逸脱する利他は、自己の言語ゲームを書き換える自己変容を伴う。他人の傷をケアすることは、自分の傷をケアすることにもつながる。

要約

【必読ポイント!】利他とケア

善意の空転を防ぐためには
gorodenkoff/gettyimages

プレゼントには、貰って嬉しいものだけではなく、困るものも多い。友人の悩み相談を聴くときにも似たようなことが起こる。慰めや励ましのつもりで口にした言葉が、かえって相手を悩ませて傷つけてしまうこともある。なぜ善意は空回りしてしまうのか。

たとえば、アンパンマンが自分の身体の一部であるパンを周囲の人に差し出せば、いつもケアが成り立っているように見える。これは、空腹という生命共通の生存課題が基盤にあるからだ。皆が貧しかった時代では、食べ物を手渡すことはケアであり利他だったのだ。

しかし、「多様性の時代」ともいわれる現代では、そうした共通の基盤は少なくなってきている。一人ひとりがそれぞれの物語を生き、これまでの人生で負ってきた個人としての歴史がまったく異なる。一人ひとりの心の「傷」の形が違うからこそ、やさしさのすれ違いも生じるのだ。

多様性とは、一人ひとりの「大切にしているもの」が違うということである。そしてその一人ひとりは、異なる立場を同時にいくつも担っている。さながら一人が複数の役割を演じる複雑な劇のようなものだ。だからこそ、ある立場では正解になる判断が、別の規範に照らしたときにはグレーになる。私たちは場面や役回りを勘違いし、語るべきセリフを間違える。それが時として人を傷つけてしまうのだ。

だが同時に、私たちは劇を変え、演じ直すこともできる。本書では「自分の大切にしているものよりも、他者の大切にしているものの方を優先すること」を「利他」と定義する。そして「その他者が大切にしているものを共に大切にする営為全体」を「ケア」と呼ぶ。

それでは、どうしたら善意の空転を防ぐことができるのだろうか。

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要約公開日 2024.07.13
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