宇宙ベンチャーの時代

経営の視点で読む宇宙開発
未読
宇宙ベンチャーの時代
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未読
宇宙ベンチャーの時代
出版社
出版日
2023年03月30日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「私のボス、宇宙に行ったの!」――。友人からこんなメッセージが送られてきたのは2021年の秋だった。ちょうどZOZOの創業者、前澤友作氏が冬に国際宇宙ステーションに向かうことが話題になっていたときだ。

「え?前澤さんはまだ飛んでないし、それは誰?」と聞くと、医療系ソフトウェア会社の創業者だった。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏率いるブルーオリジン社の宇宙船に乗り、「スター・トレック」でカーク船長を演じた俳優のウィリアム・シャトナーさんらとともに宇宙旅行を楽しんだという。少し宇宙が身近に感じられた瞬間だった。

昨今は宇宙旅行に加え、民間企業による様々な宇宙ビジネスが盛んになっている。どんなビジネスにも「ロマンとソロバン」が必要と言われるが、ロマンばかりが語られてきた宇宙開発の世界で、どうしてソロバンをはじいて帳尻を合わせられるようになったのか?そんな疑問を持ったら、ぜひ本書を手に取っていただきたい。

どんなビジネスにもリスクはあるが、宇宙開発はとびきりリスクの高い挑戦だ。莫大な投資をして開発したロケットや衛星が、一瞬にしてガラクタになってしまうこともある。新型ロケット「H3」の初号機とそれに搭載された衛星「だいち3号」は、2023年3月の打ち上げに失敗して海の藻屑となった。(その後、2024年2月には2号機の打ち上げに成功。)このように高いリスクをどう分散し、民間企業が活動できるようにするかも本書の大きなテーマのひとつとなっている。

宇宙開発に限らず、ビジネスに内在するリスク対応に興味のある方にも一読を勧めたい。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

小松伸多佳(こまつ のぶたか)
1965年東京都生まれ。’89年早稲田大学政治経済学部卒業後、(株)野村総合研究所入社。主任研究員。国際公認投資アナリスト。2005年に独立し、我が国初の有限責任事業組合(LLP)形態のベンチャー・キャピタルを設立。現在、イノベーション・エンジン(株)ベンチャー・パートナー。キャピタリストとして宇宙分野の投資を担当。企業並びに業界団体外部役員等兼務。ほかに、J AXA(宇宙航空研究開発機構)客員、内閣府規制改革会議参考人、高齢障害求職者雇用支援機構委員、関東ニュービジネス協議会部会長ほか、各種業界団体、政府関係機関委員等を歴任。著書に、『産業ニューウェーブ』(野村総合研究所、共著)、『成功するならリスクをとれ!』(東洋経済新報社)等。
〔ブログ〕https://ameblo.jp/komatsu-blog/
〔メール〕komatsu@innovation-engine.co.jp

後藤大亮(ごとう だいすけ)
1976年京都府生まれ。’01年大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了後、宇宙開発事業団、のちのJAXA(宇宙航空研究開発機構)にて推進系の研究や衛星、探査機、ロケットの開発・運用に従事。主任研究開発員。データ中継技術衛星「こだま」、月周回衛星「かぐや」、超低高度衛星「つばめ」、小惑星探査機「はやぶさ2」、H3ロケットプロジェクト等の推進系技術、および推力1N、4N、50N等の姿勢制御用小型エンジン研究開発を担当。’11~’13年に内閣府総合科学技術会議事務局へ出向し宇宙、海洋、グリーンイノベーション分野科学技術を担当。’15年に国際宇宙大学スペーススタディーズプログラム参加。そのほか、JAXA-SSPS(宇宙太陽光発電システム)研究開発ロードマップ、日本航空宇宙学会宇宙ビジョン2050有人宇宙輸送分野とりまとめ、地球環境産業技術研究機構(RITE)ALPS-IVイノベーション・投資促進検討WG委員等。

本書の要点

  • 要点
    1
    いま、世界の宇宙開発をリードしているのは「ニュー・スペース」と呼ばれる民間ベンチャーだ。ニュー・スペースの参入は、ロケットの価格破壊や技術革新などをもたらした。
  • 要点
    2
    イーロン・マスク氏率いるスペースX社は、ベンチャーの強みを活かした開発とコストダウンの工夫などにより「宇宙ベンチャーの雄」となった。
  • 要点
    3
    米国では宇宙ベンチャーの上場が相次いでいる。彼らは巨額の赤字を抱えているにもかかわらず、将来の成長期待から高値で取引されている。

要約

「宇宙ベンチャーの時代」が始まった

民間企業による宇宙ビジネス

宇宙開発はこれまで政府主導で行われていたが、民間企業がイニシアティブをとる「ビジネス」に生まれ変わりつつある。この流れは「宇宙ベンチャー」と呼ばれる民間ベンチャー企業により加速している。

2021年は「民間宇宙ベンチャー元年」と呼ぶのにふさわしい1年だった。同年7月、英国ヴァージン・グループの創業者リチャード・ブランソン氏や、アマゾン・ドット・コム社の創業者ジェフ・ベゾス氏が宇宙旅行を果たした。さらに9月には、民間人4人がスペースX社の宇宙船に乗り、3日間にわたって地球周回軌道を回った。

日本人にとって印象的だったのは、12月に前澤友作氏が国際宇宙ステーションに滞在し、様々な情報を発信してくれたことだろう。一方で海外では宇宙ベンチャーの株式公開が相次ぎ、二桁の企業がナスダックやニューヨーク証券取引所などに上場した。

なぜ急に民間宇宙旅行が実現したのか?宇宙ビジネスは儲かるのか?誰がお金を払うのか?なぜ米国で民間宇宙産業が立ち現れたのか?本書では「宇宙ベンチャー」に焦点を当て、それにまつわる疑問に答えていく。

宇宙ベンチャーが突如現れた理由
peepo/gettyimages

宇宙ベンチャーはなんの前触れもなく現れたわけではない。そこにはいくつかの導線があった。

まず、宇宙が舞台の賞金レースだ。1996年に設立された米国Xプライズ財団は、「Xプライズ」という宇宙飛行レースを開始した。このレースは「乗員3名で宇宙空間に到達して帰還し、2週間以内に同一機体で再び宇宙空間に到達したチームが、賞金1000万ドル(14億円)を受賞する」というもので、世界から26チームが参加した。そして見事優勝したのは、スケールド・コンポジッツ社の「スペースシップ・ワン」だった。スペースシップ・ワンは、後に宇宙飛行を実現したヴァージン・ギャラクティック社「スペースシップ・ツー」の原点となった。

さらに2007年に始まった月一番乗りレース「グーグル・ルナ・Xプライズ」には、日本からチーム・ハクト(後のアイスペース社)など多くのチームが参加し、民間宇宙ビジネスに影響を与えた。

宇宙ベンチャーの台頭には、ビリオネア(お金持ち)の存在も欠かせない。最も有名なのは、イーロン・マスク氏、リチャード・ブランソン氏、そしてジェフ・ベゾス氏の3名だ。こうしたビリオネアが経営者兼投資家として参入したことが、宇宙ベンチャーの躍進に拍車をかけた。

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要約公開日 2024.07.19
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