ラテン語はイタリア半島中西部の、一都市の言語として産声を上げ、古代ローマの勢力拡大に伴って通用する地域を広げていった言語だ。その後もヨーロッパの書き言葉に広く使われ、現在のフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ルーマニア語などの元になっている。
ルネサンス時代にはイングランドに住む文人たちがラテン語の多くの単語を英語に借用し、その結果ラテン語は英語の語彙にも影響を及ぼした。たとえばpush「押す」の語源はラテン語のpulso「叩く」だ。
我々は知らず知らずのうちにラテン語やラテン語由来の言葉に接している。最も頻繁に目にするのは、AからZの「アルファベット」と呼ばれる文字だろう。これは、ラテン語を書くために古代ローマで生まれた文字であり、正式には「ラテン文字」と言う。
さらに、午前を指すAMはラテン語の「正午の前に(ante meridiem)」、午後を指すPMはラテン語の「正午の後に(post meridiem)」の略だ。etc.と略される「エトセトラ」はラテン語のet cetera「~と他のものたち」が元になっているし、犯行時に現場に居なかった証明を指す「アリバイ」も、元はラテン語のalibi「他の場所で」である。
ローマ帝国は、ラテン語について語るうえで欠かせない存在だ。
ローマという都市は、できた当初はイタリア中西部に位置するほんの小さな共同体に過ぎなかった。次第に勢力を増していき、イタリア半島を統一したのみならず周辺の国々を勢力下におさめて、アフリカから中東、バルカン半島、そして現在の西ヨーロッパの大部分が支配地域に入っていた時期もある。
現在イングランドとスコットランド、ウェールズがあるグレートブリテン島も、一時期はその大部分がローマ帝国の支配下に入っており、現在でもローマ帝国の痕跡が数々見られる。代表的なものが、「ウスター(Worcester)」や「マンチェスター(Manchester)」などの地名の後半にある-cesterや-chesterだ。これらの語源はラテン語のcastrum「城砦」で、地名に-cesterや-chesterが含まれる地には、かつてローマ兵の築いた城砦があったことを意味する。
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