SFマンガで倫理学

何が善くて何が悪いのか
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SFマンガで倫理学
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SFマンガで倫理学
出版社
出版日
2024年05月09日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

なんらかの集団でリーダーを務めるとき、「みんな価値観が違う」ことから発生する問題に必ずぶつかるはずだ。とにかく淡々と、波風を立てずにやっていきたいと考える人もいれば、自分なりの問題意識を持ち、誰かとぶつかってでもひとつのことを成し遂げたいと考える人もいる。

多くの人たちとうまくやっていこうとすれば、この問題を避けて通ることはできない。そのほとんどの背景にあるのは、倫理の問題であろう。

倫理というと難解に聞こえるが、それは何が善くて何が悪いのか、何が正しくて何が不正であるかのルールだ。チームや集団での善悪や正しさについて、意外にもそれほど議論されることはない。たとえば、締め切りの迫った仕事をやり遂げるため、メンバーに徹夜を強いることは悪だろうか。メンバーどうしが恋愛関係になることは不道徳なことだろうか。これらの問題について、誰かの倫理観、マイルールが一方的に押し付けられることも望ましくない。

自分の価値観と異なるルールをなかば強制され、モヤモヤした感覚を抱いた経験のある人も少なくないだろう。倫理学は、そんなあなたの味方になってくれる。

倫理学とは、価値観が多様化したこの時代を生き抜くための教養だ。本書は、『火の鳥』『進撃の巨人』『攻殻機動隊』『寄生獣』『地球へ…』『ハーモニー』といったSFマンガを入り口として、身近な倫理的問題を一緒に考えてくれる。そこから得られる思考は、これから起こりうる難題に立ち向かうための武器となるはずだ。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

萬屋博喜(よろずや ひろゆき)
1983年、山口県に生まれ、広島県で育つ。広島工業大学環境学部准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。専門は哲学、倫理学。
おもな著書に、『ヒューム――因果と自然』『メタ倫理学の最前線』(ヒューム道徳哲学の二つの顔)蝶名林亮編(以上、勁草書房)、論文に「被爆建築の美学――旧広島陸軍被服支廠を中心に」(『フィルカル』vol.7 no.2、2022年)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    倫理とは、何が善くて何が悪いのか決めたり、何が正しくて何が不正であるか決めたりするための基準である。科学技術の分野でもしばしば倫理的問題が生じている。
  • 要点
    2
    すぐれたSFマンガは現実にはありえない技術や社会環境を描くことで、ふだんはなかなか気づくことができない倫理的問題を鮮やかに描き出し、読者に考えさせる。
  • 要点
    3
    技術による生命の操作はどこまで許されるのか、なぜ自然を保護しないといけないのか、将来世代に対してどこまで責任を持つべきか。それぞれの作品は、このような難題に向き合っている。

要約

SFマンガで倫理を問う

倫理学とは何か
anyaberkut/gettyimages

「なぜ人間のクローンをつくることは悪いのか」「なぜ自然を守らなければならないのか」。倫理学は、こうした問いにつきまとう「何が善くて、何が悪いのか」を考える学問だ。そして倫理とは、「私たちが人として従うべきルール」のことである。SF、つまりサイエンス・フィクションでは、現在よりも発展した科学技術が浸透した社会や、ほとんどの人類が滅亡したあとの世界が描かれていたりする。SFマンガは、倫理についての問いを考えるのに適しているといえる。

日常生活で倫理と向き合う場面は多い。たとえば、「自分のお金は自分のために使ってよい」ということについて、そのお金の一部を「パートナーのために使うべき」「募金や寄付にまわすべき」と考える人もいる。あるいは「約束を破ってはいけない」ということについて、その約束を忘れていて結果的に破ってしまった場合、「絶対に許せない」という人もいれば、「一回なら許してもよい」と考える人もいる。

科学においても、動物の体内で人の臓器をつくることは技術的に可能となっているが、「正当な目的があれば許される」と思う人もいれば、「いかなる目的があるとしても許されない」と考える人もいる。

倫理学を学ぶことには、3つのメリットがある。1つは、こうした問題に対して、ものごとの見方が変わり、自分の偏見を見つめ直す機会となることだ。2つ目は、「倫理的な判断や行動の原則をつくるのに貢献する」ことである。科学の発展は現時点での倫理の是非を問うことにもつながるが、意見が対立する場面で倫理学が一定の指針となりうる。そして3つ目は、「倫理がもたらす危害を防ぐ」ことだ。倫理に従う理由を問い返し、理由なく特定の集団を排除したりしないようにするのである。

どの生命をどこまで配慮すればいいのか?

人間のクローンは許される?

「ドリー」と呼ばれたクローン羊がつくりだされて以来、ひとつの細胞や個体から同じ遺伝子を持つ個体をつくりだすクローン技術は、すでに人間のクローンをつくり出せるまでに発展していると言われている。

手塚治虫の『火の鳥 生命編』には、法律で禁じられているクローン人間を生み出しハンターに殺させるテレビ番組をつくろうとする話がある。プロデューサーが訪れた研究所が、世界で初めて哺乳類のクローン化に成功したのは、火の鳥の力だということを知る。しかし、火の鳥によってつくられたのはプロデューサー自身のクローンだった。そこから、「本物」と「クローン」を区別しないハンティングが始まる。火の鳥は、私利私欲のために生命をもてあそぶ行為に対して罰を与えようとしたのだ。

ハンティングの対象になるクローン人間には殺人罪が適用されないが、クローン人間を殺したハンターが後味の悪さを覚えるというシーンも描かれる。本物とクローンをいかにして見分ければよいのか。クローン人間は本当にゲーム感覚で殺してよい存在なのか。その問いの先に、この作品は、「本物であろうがクローンであろうが、人間を人間として扱うことの重要さ」を訴えかける。

どの生命に何を配慮するのか
LedLopezHdz/gettyimages

虫や動物、ペットなどのさまざまな生命への向き合いかたは、人によって大きく違う。食肉用の家畜に対して特別な感情を持たない人もいるし、文化や風習によって生き物に対する価値観が異なる場合もある。先述のクローンなども含め、こうした「どの生命をどこまで配慮すればいいのか」という問題について描いているのが、荒川弘の『鋼の錬金術師』だ。

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要約公開日 2024.08.24
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