組織不正はなぜなくならないのか。組織不正というと、私たちはどこか他人事のように考えてしまう。だが、組織不正はどんな組織にも起こり得るのであり、決して他人事ではない。なぜなら、組織不正はその組織では「正しい」という判断で行われるからだ。自分たちが「正しい」と思っていたものが、ある日突然組織不正とされ、その責任を追及される。そういう状況に直面する可能性が誰にでもあるのだ。
組織不正なんてしないほうがいい。組織不正が一度発覚すれば取り返しのつかない事態になりかねない。にもかかわらず、なぜか組織は不正に手を染めてしまう。本書では、なぜ組織不正があとを絶たないのか、組織不正の「正しさ」に注目して考えていく。
不正が行われる理由を明らかにしたモデルとして有名なのは、「不正のトライアングル」だ。このモデルでは、人間が不正をする理由を「機会」「動機(プレッシャー)」「正当化」という3つの要素で説明している。このモデルでは、不正行為を行う者はどういった状況で不正ができるかという「機会」を知っていて、不正を行おうとしたり不正をせざるを得ない状況に追い込まれたりすることで「動機」を持ち合わせると、不正行為に至ると考える。さらに、それを仕方ないことだと割り切ろうと「正当化」する。
これは一定の支持を得ているモデルであるが、ここでは3つの要素が仮に結びついたとしても、必ず不正が起こるわけではないことを考えていきたい。組織不正の場合は、その不正が意図的に起こされたものと説明されることが少なくない。しかし、本当に不正をする者は「動機」に基づいているのだろうか。実は、必ずしも不正に手を染めた者が意図的だったとはいえない、ということが最近の研究で分かってきた。意図的ではないのに、組織不正が行われてしまう。これはとても奇妙な話だ。
最近の組織不正に関する研究では、「多くの人は無関心なまま不正をする」と言われている。「不正のトライアングル」では積極的に不正をはたらく人が想定されていた。しかし、社会学者のドナルド・パルマーはむしろ不正に消極的な人物が不正に手を染めることで、それが組織全体を巻き込んだ不正へと拡大していくと説明する。
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