組織不正はいつも正しい

ソーシャル・アバランチを防ぐには
未読
組織不正はいつも正しい
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ソーシャル・アバランチを防ぐには
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組織不正はいつも正しい
ジャンル
著者
出版社
出版日
2024年05月30日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「正しい」ことは、誰にとっても「正しい」とは限らない。

『組織不正はいつも正しい』という本書のタイトルはどこか不穏に感じられる。まるで、組織不正を正当化しているようにすら聞こえる。もちろん、本書は組織不正を手放しで擁護するものでも、推奨するものでもない。その内容は学術的な知見を取り入れながら、実際にあった企業の不正の原因を探る、という堅実なものだ。

ではなぜ、本書は組織不正を「正しい」というのだろうか。それは不正をはたらいた人々がその行動を「正しい」と考えていたからに他ならない。組織の不正が報じられるとき、多くの人が頭に思い浮かべるのは不正を通じて私欲を肥やそうとする悪人だろう。たしかに、悪意や私利私欲で不正に手を染める者はいる。しかし、それだけでは組織の不正全てを説明できないことを本書は指摘する。そこで、組織の不祥事について研究し、立命館大学経営学部にて教鞭をとる著者は「正しい」という概念に注目したのである。

不正をした者は「正しい」ことをしているつもりだった。あるいはそれは組織の中では間違いなく「正しい」ことだった。しかし、それが知らず知らずのうちに社会の正しさとかけ離れていたり、あるいはあまりにも厳しい基準としての正しさに適合しなかったりするために、不正が生まれてしまう。それは我々の思い浮かべる悪人像とはかけ離れている。

こうして「正しさ」という切り口から不正を見つめなおすことで、不正をより深く考えることができるのだ。

著者

中原翔(なかはら しょう)
1987年、鳥取県生まれ。立命館大学経営学部准教授。2016年、神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。同年より大阪産業大学経営学部専任講師を経て、19年より同学部准教授。22年から23年まで学長補佐を担当。主な著書は『社会問題化する組織不祥事:構築主義と調査可能性の行方』(中央経済グループパブリッシング)、『経営管理論:講義草稿』(千倉書房)など。受賞歴には日本情報経営学会学会賞(論文奨励賞〈涌田宏昭賞〉)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    組織不正は、個人が意図的に起こすものと考えられてきた。しかし、近年の研究では必ずしも当事者が不正を自覚しているとは限らないということが明らかになってきた。
  • 要点
    2
    三菱自動車とスズキの燃費不正問題は、国が定めた測定法を使っていないことが問題だった。しかし、この国が定めた測定法は実施が非常に困難なものだった。
  • 要点
    3
    組織の中の一個人が「正しさ」を追求し、他の人々が同調していくことで、それが組織を揺るがすような大きな不祥事にまで発展する現象を、本書では社会的雪崩(ソーシャル・アバランチ)と呼ぶ。

要約

組織不正における「正しさ」とは何か

組織不正がなくならない理由

組織不正はなぜなくならないのか。組織不正というと、私たちはどこか他人事のように考えてしまう。だが、組織不正はどんな組織にも起こり得るのであり、決して他人事ではない。なぜなら、組織不正はその組織では「正しい」という判断で行われるからだ。自分たちが「正しい」と思っていたものが、ある日突然組織不正とされ、その責任を追及される。そういう状況に直面する可能性が誰にでもあるのだ。

組織不正なんてしないほうがいい。組織不正が一度発覚すれば取り返しのつかない事態になりかねない。にもかかわらず、なぜか組織は不正に手を染めてしまう。本書では、なぜ組織不正があとを絶たないのか、組織不正の「正しさ」に注目して考えていく。

組織不正は意図的か
FangXiaNuo/gettyimages

不正が行われる理由を明らかにしたモデルとして有名なのは、「不正のトライアングル」だ。このモデルでは、人間が不正をする理由を「機会」「動機(プレッシャー)」「正当化」という3つの要素で説明している。このモデルでは、不正行為を行う者はどういった状況で不正ができるかという「機会」を知っていて、不正を行おうとしたり不正をせざるを得ない状況に追い込まれたりすることで「動機」を持ち合わせると、不正行為に至ると考える。さらに、それを仕方ないことだと割り切ろうと「正当化」する。

これは一定の支持を得ているモデルであるが、ここでは3つの要素が仮に結びついたとしても、必ず不正が起こるわけではないことを考えていきたい。組織不正の場合は、その不正が意図的に起こされたものと説明されることが少なくない。しかし、本当に不正をする者は「動機」に基づいているのだろうか。実は、必ずしも不正に手を染めた者が意図的だったとはいえない、ということが最近の研究で分かってきた。意図的ではないのに、組織不正が行われてしまう。これはとても奇妙な話だ。

無関心の怖さ

最近の組織不正に関する研究では、「多くの人は無関心なまま不正をする」と言われている。「不正のトライアングル」では積極的に不正をはたらく人が想定されていた。しかし、社会学者のドナルド・パルマーはむしろ不正に消極的な人物が不正に手を染めることで、それが組織全体を巻き込んだ不正へと拡大していくと説明する。

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要約公開日 2024.09.01
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