働くということ

「能力主義」を超えて
未読
働くということ
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「能力主義」を超えて
未読
働くということ
出版社
出版日
2024年06月22日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

現代を生きるビジネスパーソンの多くは、より秀でた能力を手に入れるために今日も何かしらの努力を積み重ねている。書店には自己啓発書が一等地に平積みされ、「まだ足りない」と我々を煽るようである。本書は、そうしてはびこる「能力主義」へと一石を投じる一冊だ。

著者の勅使川原真衣氏は外資コンサルティングファームを経て、組織開発事業を手がける「おのみず株式会社」を設立した、組織開発のプロフェッショナルだ。通読すれば、これまで必死に「選び・選ばれ」ようとしてきた自らの価値観が揺らぎ、働くことへの見方が大きく変わることだろう。要約者も、「先の見通せない不透明な時代に、自分の身は自分で守らねば」といった思いで必死に他者との差別化を図ろうとしていた自分に気づけた。

受験戦争、スポーツ大会、就職活動に年次の査定、果てはパートナー探しに至るまで、私たちは当たり前のように「選び・選ばれる」社会を生きてきた。あまりに定着しすぎているために、そのことに対して一粒の疑問すら浮かばない。本書はそんな現代の状況を問いなおし、働くということの本質に迫る。

現代を生きづらく感じる人、個々の能力で線引きされて評価されることにモヤモヤを抱える人、そしてマネジメント職に就くすべての人に本書を勧めたい。一元的には規定できない、めんどうでややこしく、人間くささ満載の「他者と働くこと」について、正面から向き合うことができるはずだ。

著者

勅使川原真衣(てしがわら まい)
1982年横浜生まれ。組織開発専門家。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て、2017年に組織開発を専門とする「おのみず株式会社」を設立。二児の母。2020年から乳がん闘病中。「紀伊國屋じんぶん大賞2024」8位にランクインした初めての著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)が大きな反響を呼ぶ。本書のほか近刊に『職場で傷つく リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    近代以降、身分制度に代わる制度として能力主義が台頭する。官民の双方が称揚してきた能力による選抜は、私たち個人の無意識下に深く定着した。
  • 要点
    2
    能力論に疑問を呈する教育社会学の流れを汲み、どちらかといえば「できない」側の立場を自覚する著者は、「働くということ」の実態を事例を通じて示そうとしている。
  • 要点
    3
    個人はレゴブロックのようなものだ。多様なブロックの組み合わせで組織の可能性が広がる。
  • 要点
    4
    組織改革のポイントは、一元的な正しさに囚われることなく「自分自身のモードをいかに選ぶか」にある。

要約

「選ばれたい」の興りと違和感

「選抜」がはびこる現代日本

「選び・選ばれる」とは何であろうか。そもそも、「選び・選ばれる」必要はあるのだろうか。

生きるための資源には限りがあるので、いかに「分け合う」かが問題となる。近代以前の身分制度は強制的に所有の偏りを生んだ。それへの不満の高まりに対処するため、体制側は「能力で個人を分ける」という論理を編み出した。「その人は何ができる人なのか?」(メリット)=「能力」を見て、それにもとづき分け合う「能力主義」の考えが、すっかり定着している。

たとえば、独立行政法人労働政策研究・研修機構が発行した「日本労働研究雑誌」2023年7月号において、「労働者も企業に選抜されるように自分自身の生産性を高める努力が必要である」と提言されている。「ありのまま」ではいけない。社会が「求める能力」を身につけなければ評価されない。しかも多くの一般市民はそれに「納得感」を持っている。それがいまの日本社会だ。

「能力主義」の欺瞞
cagkansayin/gettyimages

この「能力」論の是非について、膨大なデータを分析しつつ半世紀以上前から問うてきたのが社会教育学だ。

たとえば東京大学の本田由紀氏は『教育は何を評価してきたのか』において次のように書いている。「『能力』や『資質』『態度』はいずれも、人間の何らかの状態を呼び表す言葉だが、これらによって呼ばれている『何か』が実際に存在するわけではなく、私たちが自分の周囲の人々の動きや様子の一部をこのように名付けているにすぎない」。こうした虚構ともいえる能力を「正確に」「測る」とか、「伸長」「開発」することなどできるのだろうか。

また、「能力主義」は「本人次第でいかようにも人生を選べる!」と吹聴してきたが、オックスフォード大学の苅谷剛彦氏は「どのような家庭のどのような文化的環境のもとで育つのかが、子どもたちの間に差異をつくりだしていることは否定しがたい」と批判する。

おまけに近年では、「コミュ力」「人間力」「生きる力」のように「能力」の抽象化が進んでいることを教育社会学者は問いただす。競争のルール自体が抽象化され、それが社会の不平等な配分を決めてしまっているのだ。

もう、疲れました

2022年に帝国データバンクが行った「企業が求める人材像アンケート」では上位に「コミュニケーション能力が高い」「意欲的である」「素直である」といった抽象的な要素が並ぶ。企業は組織が「扱いやすい人」を求め、それに合わせて若者側も「汎用的な能力」を重視するようになっている。

同じく2022年、経済産業省が打ち出した「未来人材ビジョン」では、新しい時代に「必要な能力」を56の項目に整理し、一覧としてまとめている。「能力」という仮構的な概念を疑うどころか、その獲得は当然のことであると大号令を発する。

テストされ、比較され、欠乏をつきつけられ、「能力」獲得命令は私たち個人の無意識下に深く定着し、「正義」となっている。「選ばれる人」になるために無限に続くこの指令に、「もう、疲れました」と言いたくなるのは当然だ。この「能力」の急所を突かなくてはならない。

「能力」の急所

「できる・できない」が問題なのか?
beast01/gettyimages

多くの企業が目標管理制度を取り入れているが、「評価」で唐突に個人単位での振り返りをさせられ、苦しんでいる人も少なくない。ただ、どの部署が偉いとかではなく、自分の持ち場(仕事)はたくさんの人々に支えられているものだ。組織における「貢献度」の見える化とは、そもそも仕事の協働性からして便宜的なものにすぎない。

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要約公開日 2024.09.06
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