人はリスク評価をするのが苦手で、損につながる行動を避ける傾向がある。この「損を避ける選択肢を選びやすい」ことを「損失回避バイアス」と呼ぶ。
損失回避バイアスは、スポーツの場面で多くみられるが、もっとも代表的なものはサッカーのPK戦だ。PK戦では、ゴールの下段より上段に蹴るほうが成功率は高くなることが知られているが、実際には下段に蹴る選手のほうが多い。
行動経済学的には「外す勇気を持つこと」がPKを制する秘訣だが、一流の選手でもそれは難しいようだ。しかし、なぜ外す勇気を持てないのだろうか。そこには、キッカーの「PKを外してはならない」という心理が作用している。
例として、2010年ワールドカップのパラグアイ戦における、駒野友一のPKを見てみよう。全員成功で3人目まで迎え、4人目は駒野。駒野はゴール右上隅を狙ってシュートするも、バーに当たって失敗してしまう。対戦相手のパラグアイは全員PKを成功させ、その結果、日本はベスト8の夢を絶たれることとなった。この一幕は悲劇的なエピソードとして語られ、まるで「駒野のせいで負けた」というような言われ方をすることもあった。
PKはゴールの外に蹴った時点で失敗が決まる。しかし枠内に蹴った場合、キーパーと逆の方向であれば決まる可能性がある。失敗したPKの選手には「なぜ枠内にシュートを打たなかったんだ」という感情が向けられやすい。
ワールドカップなど一流選手が集まる大会から集計したデータによると、下段に蹴るより上段に蹴ったほうが、8%ほど成功率が高いことがわかっている。特にゴールの右上や左上を狙うと、8割を超える成功率が見込めるのだ。
しかし実際は、上段を狙ったシュートは全体の3分の1程度であった。プロのサッカー選手でも、成功率の低い下段を狙うという不合理な選択をしてしまうのである。
野球の送りバントは、アウトを1つ増やす代わりに塁上のランナーを1つ進塁させられる戦術だ。
野球データ分析会社DELTAに所属する蛭川らは、日本プロ野球(2014~2018年)を対象に、送りバントによって得点期待値と得点確率がどのように変化するかを分析した。その結果、送りバントをした場合に得られる得点は、ほかの戦術を取った場合より低くなることがわかった。また、送りバントによって1点を得られる確率も、無死二塁の場合を除けば減少するという。
送りバントは減少方向にあるが、それでもなくならない。そこには、「無得点でイニングが終わるのはもったいない」「ダブルプレーを避けたい」という2つの損失回避バイアスが関係している。
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