行動経済学が勝敗を支配する

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出版社
日本実業出版社

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出版日
2024年06月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

スポーツは勝敗だけでなく、プレーにも大きな関心が集まる。世界の一流選手の集まる試合であればなおさらだ。

勝敗がかかる場面において、サッカーや野球、ゴルフなどで多くの選手が安全策をとることが知られている。「試合に勝つ」には、攻撃的なプレーをしたほうが勝つ確率が高いことが知られている。にもかかわらず、なぜ選手たちは安全策に走ってしまうのだろうか。

そこには、リスクを取ったせいで失敗することを避けたい心理が働いている。また、大観衆の前で恥をかきたくないという思いや、勝敗の責任を負いたくない感情も複雑に入り混じる。このような傾向を、行動経済学では「損失回避バイアス」と呼ぶ。

スポーツではこのほかにも、さまざまなバイアスがみられる。野球ではビハインドを負っているとき、盗塁のようにリスクが高い戦術を選択することが多い。これは、不利な状況にあることに焦点をあてる「ネガティブフレーム」というバイアスのためだと考えられる。

一方で、バイアスをうまく活用している例もある。たとえば、フルマラソンを4時間以内で走り切る「サブ4」は、ランナーたちの憧れである。実際にデータを見ると、4時間の直前と直後でゴールした人数が大きく変わっている。ここには「概数効果」という認知バイアスが関係している。

ビジネスや行政でも活用される行動経済学だが、スポーツの事例は非常にわかりやすい。本書は楽しみながら行動経済学の概要を学べる、格好の一冊である。

ライター画像
ヨコヤマノボル

著者

今泉拓(いまいずみ たく)
東京大学大学院学際情報学府博士課程所属、東京スポーツ・レクリエーション専門学校非常勤講師(スポーツ分析)。1995年生まれ。東京大学理科2類に入学後、教養学部に進学しコンピュータサイエンスを専攻。大学3年生のときに、データスタジアム株式会社で野球データの分析を開始。以降、株式会社ネクストベースにて野球データの分析を担当するなど6年間データ分析に従事。東京大学大学院学際情報学府では、認知科学・行動経済学を専攻。データ分析と大学での研究をもとに、行動経済学とスポーツ分析を掛け合わせたスポーツの発展や技術向上に力を入れている。主な実績に、ARCS IDEATHON(ラグビーの傷病予測コンペティション)優勝、第18回出版甲子園準優勝、スポーツアナリティクスジャパン2022登壇など。
X(Twitter):@nowism_sports

本書の要点

  • 要点
    1
    サッカーのPK戦では、ゴール上段のほうが下段よりも成功率が高いのに、多くの選手は下段を狙う。キッカーには、失敗(損)を避けたいという「損失回避バイアス」が働いている。
  • 要点
    2
    野球では、負けているときほど無理な盗塁をしてしまう傾向がある。このとき、状況をネガティブに捉えてしまう「ネガティブフレーム」が影響している。
  • 要点
    3
    「コストをかけたから使わないともったいない」という「サンクコスト」が働いた結果、スター選手揃いのレアル・マドリーは、3年間で1回もタイトルを取れなかった。

要約

【必読ポイント!】損失回避バイアス

PK戦で「外す勇気」が持てない理由
alphaspirit/iStock/Thinkstock

人はリスク評価をするのが苦手で、損につながる行動を避ける傾向がある。この「損を避ける選択肢を選びやすい」ことを「損失回避バイアス」と呼ぶ。

損失回避バイアスは、スポーツの場面で多くみられるが、もっとも代表的なものはサッカーのPK戦だ。PK戦では、ゴールの下段より上段に蹴るほうが成功率は高くなることが知られているが、実際には下段に蹴る選手のほうが多い。

行動経済学的には「外す勇気を持つこと」がPKを制する秘訣だが、一流の選手でもそれは難しいようだ。しかし、なぜ外す勇気を持てないのだろうか。そこには、キッカーの「PKを外してはならない」という心理が作用している。

例として、2010年ワールドカップのパラグアイ戦における、駒野友一のPKを見てみよう。全員成功で3人目まで迎え、4人目は駒野。駒野はゴール右上隅を狙ってシュートするも、バーに当たって失敗してしまう。対戦相手のパラグアイは全員PKを成功させ、その結果、日本はベスト8の夢を絶たれることとなった。この一幕は悲劇的なエピソードとして語られ、まるで「駒野のせいで負けた」というような言われ方をすることもあった。

PKはゴールの外に蹴った時点で失敗が決まる。しかし枠内に蹴った場合、キーパーと逆の方向であれば決まる可能性がある。失敗したPKの選手には「なぜ枠内にシュートを打たなかったんだ」という感情が向けられやすい。

ワールドカップなど一流選手が集まる大会から集計したデータによると、下段に蹴るより上段に蹴ったほうが、8%ほど成功率が高いことがわかっている。特にゴールの右上や左上を狙うと、8割を超える成功率が見込めるのだ。

しかし実際は、上段を狙ったシュートは全体の3分の1程度であった。プロのサッカー選手でも、成功率の低い下段を狙うという不合理な選択をしてしまうのである。

損失回避バイアスを克服するには

野球の送りバントは、アウトを1つ増やす代わりに塁上のランナーを1つ進塁させられる戦術だ。

野球データ分析会社DELTAに所属する蛭川らは、日本プロ野球(2014~2018年)を対象に、送りバントによって得点期待値と得点確率がどのように変化するかを分析した。その結果、送りバントをした場合に得られる得点は、ほかの戦術を取った場合より低くなることがわかった。また、送りバントによって1点を得られる確率も、無死二塁の場合を除けば減少するという。

送りバントは減少方向にあるが、それでもなくならない。そこには、「無得点でイニングが終わるのはもったいない」「ダブルプレーを避けたい」という2つの損失回避バイアスが関係している。

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要約公開日 2024.10.06
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