大手メーカー人事部課長のAさん。直属の上司である人事部長とは20年来の付き合いだが、ずっと仕事のやりにくさを感じている。
部長は悪い人ではないのだが、社長の前では態度が急変する「究極のイエスマン」だ。部長の指示に従って進めた案件も、社長の「ツルの一声」で一瞬でなくなったことは一度や二度ではない。早めに取り掛かっても反故されてしまうこともあるため、Aさんは納期ギリギリまで部長の「ファイナルアンサー」を待つようになった。
そんなAさんだが、評価面談のときに部長から「主体性、積極性に課題」と告げられた。「取り掛かりが遅すぎるんだよね。イニシアチブがとれてないというか。これじゃあ、昇格は遠いかな」――。
立場の強い側から一方的に「仕事ができない」とレッテルが貼られてしまう。これは、Aさん個人の「能力」の問題なのだろうか。
人間はお互い異なる「持ち味」を持っている。このケースは、部長とAさんの凸凹がかみ合わないために、組織としてうまくいっていない状況だ。つまり、個人の問題というより「組み合わせの問題」ではないだろうか。
著者は、この一連のすれ違いには「傷つき」があるという。こういった「職場の傷つき」はそこかしこに存在しているのに、なかったことにされている。これは問題ではないだろうか。
会社側の一方的な「評価」「処遇」に対する怒りから、訴訟に発展するケースもある。しかし、その前段階には相当な「傷つき」があったはずだ。もしその時点で〈対話〉していれば紛争に発展しなかったかもしれないのに、ほとんどの職場ではそれができていない。むしろ「目線合わせ」のための対話を申し出た時点で、「めんどくさい人フラグ」が立てられてしまうのが現状だ。
2023年末、ダイハツ工業の不正問題が明るみになった。ダイハツは試験実施時の不正加工や調整、試験データの捏造・改ざんなどを、34年にわたって続けていた。
第三者委員会の調査では「自己中心的な組織風土」が指摘された。さらに、報告書には職場の日常としてこう記されていた。「失敗したときに激しい叱責や非難」「人員不足で余裕がなく、目の前の仕事をこなすことでいっぱい」「スケジュールは綱渡り日程でミスが許されない」……。さらに、「自分で考えろ」が職場の頻出ワードだったという。
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