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ネガティブ・ケイパビリティの思考習慣
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出版社
技術評論社

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出版日
2025年02月07日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

「すぐに対応します」「今この場で決めましょう」――仕事をしていると、一日に何度も口にしたり見聞きしたりする言葉だ。即断即決し、即行動に移せる人は、どのような組織においても「仕事のできる人」と扱われる。だが、そうしたスピード一辺倒の行動が、かえって組織に悪影響をもたらしているとしたら?

本書では、ワークスタイルと組織開発の専門家である沢渡あまね氏が、組織におけるネガティブ・ケイパビリティの大切さについて論じていく。

ネガティブ・ケイパビリティとは、すぐ解決しようとしない行動特性および能力のこと。「すぐに対応します」「今この場で決めましょう」とは対極にある考え方だ。

あまりピンとこない人も安心してほしい。本書では、ネガティブ・ケイパビリティの足りない組織に中途入社した黒部みゆきを主人公とした12の「あるある」エピソードが紹介されている。目先の話しかしない1on1ミーティング、「自分でやったほうが早い!」でマネージャーやリーダーが仕事をもっていくチーム、「で、あなたはどうしたいの?」が繰り返される会議……いずれも「あるある」エピソードの一部だ。読み進めているうちに、ネガティブ・ケイパビリティ不足の組織に何が起こるか、その状況を変えるにはどうすればいいかが、スムーズに理解できるだろう。

たいていの読者は、本書を読んで、自分の組織にはネガティブ・ケイパビリティが足りないと気づくだろう。息苦しい働き方をやめ、よりクリエイティブに成果を出していきたい人にとって、大切なヒントになるはずだ。

著者

沢渡あまね(さわたり あまね)
作家・企業顧問/ワークスタイル&組織開発。『組織変革Lab』『あいしずHR』『越境学習の聖地・浜松』主宰。
あまねキャリア株式会社CEO/一般社団法人ダム際ワーキング協会 共同代表/大手企業 人事部門・デザイン部門ほか顧問。プロティアン・キャリア協会アンバサダー。DX白書2023有識者委員。
日産自動車、NTTデータなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で,働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演をおこなう。
おもな著書:『新時代を生き抜く越境思考』『EXジャーニー』『組織の体質を現場から変える100の方法』『「推される部署」になろう』『バリューサイクル・マネジメント』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』
趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。
【ホームページ】http://amane-career.com/
【X】https://x.com/amane_sawatari

本書の要点

  • 要点
    1
    ネガティブ・ケイパビリティとは「すぐ解決しようとしない行動特性および能力」のことだ。ネガティブ・ケイパビリティのある仕事の進め方とは、じっくりものごとを観察し、人々と対話をし、良好な関係を構築しながら真の原因を特定したり、意外なアイデアや能力と出会って新たな解決方法を見つけたりするといったものだ。
  • 要点
    2
    ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティはいずれも必要であり、いずれか一辺倒ではうまくいかない。
  • 要点
    3
    次から次にタスクや仕事を捌こうとする「ポジティブ・ケイパビリティ優位な組織」を変えるには、タスクや仕事を重要度×緊急度のマトリクスで整理して、皆で眺める習慣をつけるとよい。

要約

ネガティブ・ケイパビリティと組織

ネガティブ・ケイパビリティ不足の組織に起こること

ある人は、1on1ミーティングにてマネージャーから「気になっていることはないか?」と聞かれた。とくに思いつかなかったが、黙っているのも良くないと思い、「しいて言えば……」と前置きして回答。するとマネージャーは「すぐ解決しよう!!」と意気込み、部門長や他部署まで巻き込んで、ちょっとした騒ぎになってしまった――。

このように、なんでもすぐ解決しようとする職場カルチャーや行動様式には、さまざまな弊害がある。

まず、メンバーの心理的安全性の低下だ。この担当者はおそらく、もう二度とマネージャーに本音やちょっとした気がかりなことを伝えなくなるだろう。また、何でもすぐ解決しようとする組織カルチャーは、マネージャーからもメンバーからも深く考えて行動する習慣を奪う。問題やトラブルが発生しても、うわべだけの対策しか講じられず、根本原因はいつまでも解決されないままだろう。

こうした弊害は、「ネガティブ・ケイパビリティ(Negative Capability)」がないことによって起こる。本書では、ネガティブ・ケイパビリティを「すぐ解決しようとしない行動特性および能力」と定義して議論していく。

ネガティブ・ケイパビリティとポジティブ・ケイパビリティ
bounward/gettyimages

ネガティブ・ケイパビリティの真逆の概念に、すぐ解決する能力や体制を意味する「ポジティブ・ケイパビリティ(Positive Capability)」がある。

ポジティブ・ケイパビリティとネガティブ・ケイパビリティは、いずれか一辺倒ではうまくいかない。その時々の課題にあわせて使い分ける必要がある。

もちろん、素早く行動したり問題を解決したりする行為はすばらしい。しかし、じっくりものごとを観察し、人々と対話をし、良好な関係を構築しながら真の原因を特定したり、意外なアイデアや能力と出会って新たな解決方法を見つけたりする探索こそ、VUCA時代においては求められるのではないだろうか。

なにより、ポジティブ・ケイパビリティ一辺倒の仕事と社会は、息苦しくて楽しくない。仕事へのやりがいや楽しさのバリエーションを増やす意味でも、ネガティブ・ケイパビリティにも目を向けてみてはどうだろう。

ネガティブ・ケイパビリティ不足の組織における「あるある」

課題をすぐに解決しようとする1on1ミーティング

黒部みゆきはあるスタートアップ企業に中途入社したばかりだ。

今日はマネージャーである薗原(そのはら)との1on1ミーティング。最後に薗原から「ほかに、黒部さんが気になっていることとかありますか?」と尋ねられたが、とくに思いつかない。とはいえ、何も言わないわけにもいかないからと「あえて言うならば……」と前置きし、同じプロジェクトのメンバーの鶴田(つるた)の攻撃的な言動が気になると話した。尖った若手にありがちな行動だと思うし、騒ぐほどのことでもないとは思いながら。

だがその話を聞いた薗原は表情をこわばらせ、「それは問題だな、すぐ解決しよう!」といい、すぐに会議室を出て行ってしまった。

翌日、黒部はプロジェクトメンバーの数名から聞かれた。「ねえ、いったい何があったの。薗原さんから、鶴田さんのことについてあれこれ聞かれたんだけれども……」

「この会社の1on1ミーティングでは、迂闊なことは言えないな……」と感じた黒部だった。

目先の話しかしようとしない、なおかつ、その場で挙がった問題や課題をとにかく即解決しようと躍起になる1on1ミーティングには、5つの弊害がある。心理的安全性の低下、メンタルヘルスの悪化、チームワーキング不全、問題解決能力の低下、マネジメント不全だ。

部下の仕事に細かく口出しする上司
VioletaStoimenova/gettyimages

黒部はある日、マネージャーの薗原から、新たな仕事を任せたいといわれた。同じチームのリーダーである矢作にもフォローしてもらえるそうだ。

この機会に成長したい。そう意気込んで新しい仕事に着手したものの、薗原は新しいアイデアをすぐさま否定し、従来のやり方に合わせることを強要してきた。矢作は事細かに自分のやり方を指示した挙句、「僕がやったほうが早いですから」と黒部の仕事を巻き取り、成果を自分の手柄にしてしまった。

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要約公開日 2025.04.10
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