現在、大半の新聞社や出版社において、出世コースは「紙」である。いまだにデジタルには、マイナー部署、左遷ポストといったイメージがつきまとう。しかし今後は、「紙を中心にすえ、デジタルにオマケとして取り組む」という今の姿から、「デジタルを起点にして、紙、広告、イベントなどの戦略を考える」という姿に急速にシフトしていくだろう。人事という点でも、デジタルの部署は、会社のエースを投入するポジションになっていくはずだ。
紙の世界を支配するのは、「組織や会社の論理」である。個性よりも、媒体全体のトーンや世界観が優先される。必然的に、読者の評価よりも、社内の評価を気にする“内向き人間”になっていく。
それに対し、デジタルでは「個人のキャラ」がモノをいう。多種多様な競争相手のいるウェブの世界においては、主観を抑え事実をたんたんと書いた記事よりも、個人の色がにじみ出た記事のほうがよく読まれるのである。
新聞・雑誌では「今日の日経新聞の記事でさあ」という会話のように媒体名に主眼がおかれる一方で、デジタルの世界では各媒体をつまみ食いする傾向があり、デジタルでは組織より個人の論理が支配的になるのである。
したがって、これからの記者・編集者には、本業の実力を大前提として、エッジのきいたパーソナリティや語る力、入念なブランド戦略が不可欠となるのである。
紙の世界では、記者・編集者にとってライバルとなるのは、他企業の記者・編集者だった。スクープ合戦は、あくまで狭い内輪同士の争いだったが、新世界ではスクープだけでは不十分である。オリジナリティのある読み物が、媒体力のコアになっていく。そこでカギを握るのが分析力であり、ストーリーテリングの力であり、人の本音を引き出す力であり、斬新な切り口を考える力である。
「東洋経済オンライン」を担当してよくわかったのは、クオリティの高い読み物を提供できる書き手は、ジャーナリスト以外にも多いということである。とくに各界の最前線で活躍するビジネスパーソンの中には、スター筆者の卵が多数眠っている。
これからも、中立的な立場から記事を書く、ジャーナリストの存在価値はなくならない。ただ一方で、立場を明確にした上で、自らの意見や価値観を打ち出す”非ジャーナリスト”の記事も存在感を高めるだろう。「透明性」を大事にしながら、情報の発信主は多様化していく。それがメディア新世界の姿なのである。
「東洋経済オンライン」の担当になり、3カ月の準備を経て、二〇一一年十一月にサイトを大幅刷新した。それまで五〇〇万~一〇〇〇万だったページビュー(PV)は、二〇一三年三月には、五三〇一万PV、ユニークユーザー数七〇三万人に到達し、ビジネス誌系サイトでナンバーワンに躍り出た。
成功の要因は、「紙の編集部と、組織、コンテンツ、ブランドを切り離したこと」「三〇代をターゲットにしたこと」「ユーザー第一主義を徹底したこと」の三つである。
特に「紙の編集部と切り離した」理由は、紙とオンライン間の違いが大きく、記事の更新スピード、人気が出る記事の特性、読者の構成、競争環境が異なるためである。
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