5年後メディアは稼げるか
5年後メディアは稼げるか
MONETIZE OR DIE?
5年後メディアは稼げるか
出版社
東洋経済新報社
出版日
2013年07月18日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

今も日本で隠然たる影響力を持つ巨大メディアは今後、どのような姿になるのだろうか。

雑誌媒体のプレゼンスは低下が叫ばれて久しいが、そのコンテンツの質の高さは現在も際立っているし、新聞の発行部数では今も読売新聞、朝日新聞を筆頭に、世界のトップ5の内4紙を占めるほど、日本のメディアは圧倒的な地位を保っている。日本ではその優れた宅配ネットワークが存在することに加え、活字を読む習慣が日本国民に深く根付いていることも、その要因だろう。

しかしながら、このままでメディアが生き残れるのだろうか、という問いが本書の主題である。その先行事例として、本書では紙媒体の低迷に伴うウェブへの取り組みで成功した米国の事例を紹介している。特にフィナンシャル・タイムズの例にあるウェブにおけるマネタイズ手法は、メディア企業独自のものではなく、ITベンチャー界で言われている定石に倣ったものであり、両者のビジネスモデルの類似性はますます強まっているのである。

本書はメディアに携わる方はもちろん、リアル世界におけるビジネスモデルに変化が起きている業界の方、IT企業等のウェブを主戦場とした事業運営をしている方、全てに対して強いメッセージを有した書籍であり、是非とも一読すべき良書である。本書を読んでいただければ、その内容を参考に今後の各業界の将来像を考える貴重な機会を得ることだろう。

ライター画像
大賀康史

著者

佐々木 紀彦
「東洋経済オンライン」編集長
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。2009年7月より復職し、『週刊東洋経済』編集部に所属。「30歳の逆襲」「非ネイティブの英語術」「世界VS.中国」「さらば!スキルアップ教」「ストーリーで戦略を作ろう」「グローバルエリートを育成せよ」などの特集を担当。2011年7月に出版した『米国製エリートは本当にすごいのか?』(東洋経済新報社)が5万部のセールスを記録。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月で5301万ページビューを記録し、同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導く。

本書の要点

  • 要点
    1
    メディア業界において、紙媒体からデジタルへの移行が急速に進むことが予想される今、紙の方法論と決別した新たな組織体制を組成した上で、個性の強いデジタルメディアの創造が必要となる。
  • 要点
    2
    ニューズウィークが紙媒体の発行を終了したように、海外における紙媒体からデジタルへのシフトは日本に先行している。フィナンシャル・タイムズを代表例とした、海外でウェブでの有料課金に成功した事例に日本のメディアは倣うべきである。
  • 要点
    3
    次世代ジャーナリストは、①媒体を使い分ける力、②テクノロジーに関する造詣、③ビジネスに関する造詣、④万能性+最低三つの得意分野、⑤地域、国を超える力、⑥孤独に耐える力、⑦教養、の7つの力を磨き、デジタル時代におけるジャーナリストとして付加価値を高める努力をすべきである。

要約

【必読ポイント!】 メディア新世界で起きる大変化

紙が主役→デジタルが主役

現在、大半の新聞社や出版社において、出世コースは「紙」である。いまだにデジタルには、マイナー部署、左遷ポストといったイメージがつきまとう。しかし今後は、「紙を中心にすえ、デジタルにオマケとして取り組む」という今の姿から、「デジタルを起点にして、紙、広告、イベントなどの戦略を考える」という姿に急速にシフトしていくだろう。人事という点でも、デジタルの部署は、会社のエースを投入するポジションになっていくはずだ。

iStockphoto/Thinkstock
個人より会社→会社より個人

紙の世界を支配するのは、「組織や会社の論理」である。個性よりも、媒体全体のトーンや世界観が優先される。必然的に、読者の評価よりも、社内の評価を気にする“内向き人間”になっていく。

それに対し、デジタルでは「個人のキャラ」がモノをいう。多種多様な競争相手のいるウェブの世界においては、主観を抑え事実をたんたんと書いた記事よりも、個人の色がにじみ出た記事のほうがよく読まれるのである。

新聞・雑誌では「今日の日経新聞の記事でさあ」という会話のように媒体名に主眼がおかれる一方で、デジタルの世界では各媒体をつまみ食いする傾向があり、デジタルでは組織より個人の論理が支配的になるのである。

したがって、これからの記者・編集者には、本業の実力を大前提として、エッジのきいたパーソナリティや語る力、入念なブランド戦略が不可欠となるのである。

書き手はジャーナリストのみ→読者も企業もみなが筆者

紙の世界では、記者・編集者にとってライバルとなるのは、他企業の記者・編集者だった。スクープ合戦は、あくまで狭い内輪同士の争いだったが、新世界ではスクープだけでは不十分である。オリジナリティのある読み物が、媒体力のコアになっていく。そこでカギを握るのが分析力であり、ストーリーテリングの力であり、人の本音を引き出す力であり、斬新な切り口を考える力である。

「東洋経済オンライン」を担当してよくわかったのは、クオリティの高い読み物を提供できる書き手は、ジャーナリスト以外にも多いということである。とくに各界の最前線で活躍するビジネスパーソンの中には、スター筆者の卵が多数眠っている。

これからも、中立的な立場から記事を書く、ジャーナリストの存在価値はなくならない。ただ一方で、立場を明確にした上で、自らの意見や価値観を打ち出す”非ジャーナリスト”の記事も存在感を高めるだろう。「透明性」を大事にしながら、情報の発信主は多様化していく。それがメディア新世界の姿なのである。

iStockphoto/Thinkstock
ページビューが10倍に伸びた理由

「東洋経済オンライン」の担当になり、3カ月の準備を経て、二〇一一年十一月にサイトを大幅刷新した。それまで五〇〇万~一〇〇〇万だったページビュー(PV)は、二〇一三年三月には、五三〇一万PV、ユニークユーザー数七〇三万人に到達し、ビジネス誌系サイトでナンバーワンに躍り出た。

成功の要因は、「紙の編集部と、組織、コンテンツ、ブランドを切り離したこと」「三〇代をターゲットにしたこと」「ユーザー第一主義を徹底したこと」の三つである。

特に「紙の編集部と切り離した」理由は、紙とオンライン間の違いが大きく、記事の更新スピード、人気が出る記事の特性、読者の構成、競争環境が異なるためである。

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要約公開日 2013.10.31
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