電通に入って、一番意外だったことは「おもしろい企画」を出せれば誰もが「おもしろい!」と言ってくれるのだと思ったらそうではなかったことだ。「おもしろい企画」を出すことは仕事の半分だけで、残りは「面白い企画だと相手にわかってもらうこと」だと知らされた。それだけにプレゼンテーションは企画と同じくらい重要だと思う。
とある企業でのプレゼンの帰りのタクシーの中で、上司から「今日のプレゼンはよかったぞ」と言われた。絶対に嘘だと思った。僕はそのとき、最悪のプレゼンをしたと反省していた。論理はめちゃくちゃ、話はあちらこちらに飛び「いったいどこがよかったのですか?」と質問してみると、「企画を信じている思いがひしひしと伝わった」と上司は答えた。そのとき、プレゼンの本質がわかった気がした。プレゼンはその人がその企画をどれだけ信じているかを説明する場。クライアントは立派な講義を聞きたいわけじゃない。みっともないくらいでもいいから、全身全霊で説明すること。それ以上でもそれ以下でもない。
C飲料の競合プレゼンで「このCMで使う楽曲はどんなイメージなんですか?」という質問に対し、「こんな感じです」とその場で歌ってしまった。僕はかなりの音痴だ。会場からは失笑が漏れ、1週間後に来たプレゼンの結果はやはり「負け」であった。しかし、その2か月後、そのクライアントから別の商品を僕に任せたいという連絡が入ってきた。理由を聞くと「プレゼンがあまりに面白かったので、一度仕事をしてみたい」ということだった。このことから言えることは、負けても好かれて帰ってこなくちゃいけないということ。プレゼンでは企画と同時に人を見ている。そのとき負けても愛されれば、そのプレゼンは次へつながる。
アイデアを生み出すのにいい環境は人によって違う。テーマを持って町に出る、散歩する…これが僕の脳には意外と効く。重要なことはそのとき、「アイデアノート」を必ず持ち歩くということ。手のひらに乗るくらいの小さなノートでいい。何か思いついたらすぐに書き残しておく。そのアイデアはその後の調理方法によって立派なものに育つ可能性は十分にある。僕の周りでも結構アイデアノートをもっている人が多いことに気付いた。CM界の鬼才、中村信也監督も、松山でお会いしたホテルオーナーの方も、小さなノートを取り出していた。
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