売る力

心をつかむ仕事術
未読
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売る力
出版社
文藝春秋
出版日
2013年10月20日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

あなたには「このコンビニが一番好きだ」と言えるコンビニチェーンがあるだろうか。

日本最大のコンビニエンスストアチェーン、セブン-イレブン。実はセブン-イレブンの全店平均日販は約67万円で、何と他の大手チェーンを12~20万円も上回っているという。しかもセブン-イレブンの日販は3年前より5万円も高くなっているそうだ。

王者であるとともに変革者。この最強のコンビニチェーンを運営する売上高約9兆円の流通企業、セブン&アイ・ホールディングスのトップである鈴木敏文氏が著した本書は、セブン-イレブンが他の追随を許さない商品開発や販売手法の秘密が明かされている。

ページをめくると、鈴木氏が如何に人間の心理を捉えた「行動経済」を重視しているかが分かる。「こうすればお客様はこう思うだろう」と考える鈴木氏のアイデアは、発案当初は多くの人から反対された「突飛なアイデア」に見えるが、お客様の立場に立って考えればごく当たり前のものだったりする。本書には「PB商品は安い」という業界の常識を覆し、「セブンプレミアム」が生まれた際のエピソードをはじめ、多くの事例が紹介されており、新書ながら読み応え抜群だ。

私たちは普段から「お客様のために」考えているつもりでいるが、実は自分の都合を考えてしまっている。そのことに気付き、普段から真に「お客様の立場に立って」考えること、それこそが王者セブン-イレブンの「売る力」に近づく一歩になるはずだ。

ライター画像
苅田明史

著者

鈴木 敏文
1932年、長野県生まれ。中央大学経済学部卒業後、書籍取次大手のトーハンに入社。その後、イトーヨーカ堂へ移る。1973年11月、セブン‐イレブン・ジャパンを設立し、コンビニエンスストアという業態を全国に広め小売業界を変革した。2003年、勲一等瑞宝賞を受賞。同年11月、中央大学名誉博士学位授与。経団連副会長、中央大学理事長等を歴任。現在、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO。

本書の要点

  • 要点
    1
    セブンプレミアムがPB商品としては他に類を見ない成功をおさめたのは、市場の大小に目を奪われずに、競合相手が進出していない「上質さ」と「手軽さ」の空白地帯を見つけたことが勝因であった。
  • 要点
    2
    お客様が次にどんなものを求めるかを知るには、「お客様のために」ではなく「お客様の立場で」考えることが重要だ。「お客様の立場で」考えるときは、自分たちに不都合なことでも実行しなくてはならない。
  • 要点
    3
    お客様は期待度をどんどん増幅させていくため、お客様のロイヤリティを維持していくことはとても難しい。だからこそ、飽きられないようにするために自分たちが変わっていくことが重要だ。

要約

「新しいもの」は、どう生み出すのか?

どんな高級料理も三日続けて食べれば、お茶漬けが食べたくなる
kuppa_rock/iStock/Thinkstock

食べものの場合、お客様は、おいしいものを出さないと買ってくれない。しかし、「おいしいもの」はおいしければおいしいほど飽きる。週に三、四日、続けて高級料亭に行かなければならないとき、いいのは最初の一日だけで、あとはお茶漬けかラーメンのほうがよくなる。

「わたしたちが提供する商品も同じ」と鈴木氏は言う。セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド(PB)である「セブンプレミアム」のワンランク上の高級版ブランド「セブンゴールド」のシリーズで、「金の食パン」が2013年4月から発売された。スペシャルブレンドの小麦粉や北海道産の生クリーム、カナダ産のハチミツを使用し、製造工程にも手間をかけたこの商品は、メーカーのナショナルブランド(NB)の食パンよりも5割以上、従来のPB商品の2倍の値段であった。にもかかわらず、おいしさが支持されて計画を5割上回る売上を記録し、4ヵ月で1500万食を売る人気商品になった。

普通ならば、販売により力を入れるよう指示を出すところだが、鈴木氏は発売直後から別の指示を出したという。その指示とは、「すぐに次のリニューアル版の商品開発を始めるように」というものだ。金の食パンはおいしさが際立っているがゆえに、飽きられる。飽きられてから次の商品を開発するのではなく、飽きられたときにすぐ次の商品を投入できるよう、いまから研究に着手させたのだ。

飽きられないものをつくるのが商売のように思われがちだが、鈴木氏に言わせればそれは本当のようなウソで、お客様が飽きる(ほどおいしい)商品を毎日これでもかと供給し続けてはじめて「飽きられない商品」を提供し続けられるようになるのだ。

お客様の「6割」より「4割」に目を向けるべし
DAJ/amana images/Thinkstock

セブンプレミアムがヒットしたのは、競合相手が進出していない「上質さ」と「手軽さ」の空白地帯を見つけたからだと鈴木氏は述べている。

従来のPB商品といえば、「メーカーのNB商品より安い商品」という、価格の「手軽さ」を追求するものであった。これに対して鈴木氏は、低価格優先ではなく「上質さ」を追求した商品を開発するよう命じたという。その結果、NB商品と同等以上の「上質さ」を実現しながら、価格面の「手軽さ」をちりばめたセブンプレミアムは、コンビニ、スーパー、百貨店のどの業種、どの店舗でも大ヒット商品になったのだ。

仮に商品の価格の低さを重視するお客様と、質に価値を感じるお客様がいて、その割合が6対4だった場合、「上質さ」を追求するより、低価格優先の「手軽さ」が売りの商品をつくるほうが容易である。6割のお客様がそれを求めているとすれば、売り手の大半はそちらを選ぶだろう。

だがその場合、6割のお客様に対して売り手の9割が商品を供給する飽和状態になり、価格競争に陥ってしまう。

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要約公開日 2014.01.24
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