食べものの場合、お客様は、おいしいものを出さないと買ってくれない。しかし、「おいしいもの」はおいしければおいしいほど飽きる。週に三、四日、続けて高級料亭に行かなければならないとき、いいのは最初の一日だけで、あとはお茶漬けかラーメンのほうがよくなる。
「わたしたちが提供する商品も同じ」と鈴木氏は言う。セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド(PB)である「セブンプレミアム」のワンランク上の高級版ブランド「セブンゴールド」のシリーズで、「金の食パン」が2013年4月から発売された。スペシャルブレンドの小麦粉や北海道産の生クリーム、カナダ産のハチミツを使用し、製造工程にも手間をかけたこの商品は、メーカーのナショナルブランド(NB)の食パンよりも5割以上、従来のPB商品の2倍の値段であった。にもかかわらず、おいしさが支持されて計画を5割上回る売上を記録し、4ヵ月で1500万食を売る人気商品になった。
普通ならば、販売により力を入れるよう指示を出すところだが、鈴木氏は発売直後から別の指示を出したという。その指示とは、「すぐに次のリニューアル版の商品開発を始めるように」というものだ。金の食パンはおいしさが際立っているがゆえに、飽きられる。飽きられてから次の商品を開発するのではなく、飽きられたときにすぐ次の商品を投入できるよう、いまから研究に着手させたのだ。
飽きられないものをつくるのが商売のように思われがちだが、鈴木氏に言わせればそれは本当のようなウソで、お客様が飽きる(ほどおいしい)商品を毎日これでもかと供給し続けてはじめて「飽きられない商品」を提供し続けられるようになるのだ。
セブンプレミアムがヒットしたのは、競合相手が進出していない「上質さ」と「手軽さ」の空白地帯を見つけたからだと鈴木氏は述べている。
従来のPB商品といえば、「メーカーのNB商品より安い商品」という、価格の「手軽さ」を追求するものであった。これに対して鈴木氏は、低価格優先ではなく「上質さ」を追求した商品を開発するよう命じたという。その結果、NB商品と同等以上の「上質さ」を実現しながら、価格面の「手軽さ」をちりばめたセブンプレミアムは、コンビニ、スーパー、百貨店のどの業種、どの店舗でも大ヒット商品になったのだ。
仮に商品の価格の低さを重視するお客様と、質に価値を感じるお客様がいて、その割合が6対4だった場合、「上質さ」を追求するより、低価格優先の「手軽さ」が売りの商品をつくるほうが容易である。6割のお客様がそれを求めているとすれば、売り手の大半はそちらを選ぶだろう。
だがその場合、6割のお客様に対して売り手の9割が商品を供給する飽和状態になり、価格競争に陥ってしまう。
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