本書は4章構成となっており、読者は各章を読むことでマーケティングに必要な「感動できる柔らかなココロ」を持つための視点を養うことができる。
第1章は「マーケットを知る」というタイトルの通り、マーケットやマーケティングの意味を考えながら、その本質について学ぶことができる。
マーケットとは言うまでもなく、需要と供給の取引を行う場のことだ。マーケティングとは、マーケットに現在進行形の「ing」を加えた言葉であり、そのマーケットが生き物のように常に変化し、動き続けていることを意味している。マーケットがなぜ変動するかと言えば、それはマーケットを利用している我々の欲求が絶えず変化しているからだ。
マーケティングの定義は様々だが、その本質を一言でまとめるなら「マーケットを創造すること」だといってよいだろう。著者である西村氏はこの本質を咀嚼して、マーケティングは「豊かな未来を語ること」だと考えている。
豊かな未来の生活を思い描いてみれば「こんなモノがあったらいいな」「こういうサービスがあったら嬉しい」といった欲求が見えてくる。それを想像して語り合い、共感するヒトが増えれば、需要が大きくなり、新しいマーケットが創られる。これを繰り返し、未来の生活が豊かになるように貢献していくことが、マーケティングの使命なのだという。
「豊かな未来を語る」と聞けば、卓越したセンスのような特殊な能力が必要だと感じるヒトもいるかもしれない。だが、そうではなく、未来を語る力は誰にでもある。たとえば「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺があるが、これは「風が吹く」というひとつの事象から未来を語っている好例だ。
同じように、アイドルオタクは、多くのアイドルの卵たちの中から「売れる」アイドルをかなり高い確率で読み当てることが出来る。これは、彼らがファッションや音楽、広告やPRなどに精通しているからではなく、アイドルがいる暮らしを楽しむ生活者として「こういうアイドルがいたら嬉しい」「こういうアイドルを応援したい」と強く実感しているからだ。
どんなヒット商品も、それをマーケットの中に生み出し、育てるのは生活者である。商品があるからマーケットが生まれるのではなく、生活者が豊かな未来を思い描いた結果として、その生活を実現できる商品が誕生し、新しいマーケットが創られるのだ。
マーケットに目を向ける際、注目すべきなのは市場規模だけではない。
100円ショップで商品を100万個販売したときの売上と、1億円の宝石を1人に売ったときの売上は同じ1億円である。しかし、ふたつのマーケットの構成内容はまったく異なる。
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