全世界におけるイスラム教徒(ムスリム)の人口は、現在約16億人(世界人口の約23%)で、実はこのうち60%以上は東南アジア諸国に居住している。そのうえ、ムスリム人口は2020年には約19億人、2030年には約22億人に達する見込みだ。市場規模は2兆1000億ドルと言われるこのビッグマーケットに今、世界中の企業が注目している。
しかしながら急成長するこの市場に対し、日本だけが大きく遅れを取ってしまっている。参入しているのはキユーピーや味の素など一部の日本企業に留まり、市場規模や市場価値を考えればまったく手付かずと言っても構わないほどだ。東南アジアで日本は注目を集めつつあるにもかかわらず、日本食を提供する店が多い親日国家のマレーシアでも、よく見ると日本人が経営している店ではなかったり、日本メーカーの商品でもなかったりするのである。
本書はそんなイスラム市場に進出を考える日本企業にとって、現地でどういった需要があるのか、どのように事業展開をすればよいのかを示す一冊だ。アウトバウンド・インバウンドの事例も豊富に紹介されており、これらの市場に興味を抱く人にとっての良きガイドブックになるはずである。
「ムスリムは豚肉を食べてはいけない」ということはどこかで聞いたことがあるという日本人も多いだろう。だが、裏を返せばその程度の認識しか持っていないのが大多数の日本人なのだ。
ハラルマーケットの「ハラル」とは、「健全な商品や活動」を指すイスラム教の教えの総称のことだ。例えば、イスラム教の教えにのっとって処理された食べ物が該当する。その逆で「ハラル」ではない物や事、教えにふさわしくないものを「ハラム」「ノン・ハラル」と呼ぶ。
ハラルマーケットへの参入が遅れた一番の原因は、宗教に対する無関心や偏見ではないか、と本書では指摘している。日本はもともとほぼ単一民族国家であるため、民族や宗教による習慣の違いや、地域による文化の違いが少なく、さまざまな民族に対応することに不慣れなのだろう。
日本人にとっては、「ハラル」が宗教上の戒律であるというだけで、日本人には受け入れ難いものになってしまうのだ。イスラムと聞くとテロや過激派が起こす紛争を連想し、怖いというイメージが固定化され、偏見を持つ人が多い現状に、日本が出遅れた原因があるのではないか。
ハラルマーケットという言葉は日本人にとって耳慣れないかもしれないが、実はすでに欧米、中国や韓国、そして東南アジアから見れば、その価値は十分認識されている。しかしながら、日本の商品は品質や性能の面で高い評価を受けているにもかかわらず、あまり流通していないのだという。
日系スーパーも進出しているにもかかわらず、日本の商品が売れない理由は、「ハラル認証」を取得していない点が大きい。
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