テッセイの新幹線清掃、その最大の特徴は「掃除の速さ」にある。駅のホームに到着した新幹線車両が折り返して発車するまでの時間はわずか12分。降車・乗車時間を除くと、清掃に使える時間はわずか7分間しかない。
清掃と言っても、座席の下や物入れにたまったゴミをかき集め、座席の向きを進行方向に戻し、100席すべてのテーブルを拭き、座席カバーを交換し、忘れ物をチェックし、トイレを掃除し・・・と実に多くの作業をわずか7分の間で行っているのだ。
清掃するチームは1チーム22名だが、基本的には100席ある1車両を1人で清掃している。各チームは通常1日約20本の車両清掃を行っており、テッセイのスタッフが掃除する座席、拭くテーブル数は1日に合計約12万席にもなる。しかし、テーブルが汚れているというクレームは年にわずか5件程度しかないという。テッセイの仕事はまさに圧倒的なスピードと精度を持っているのだ。
バブル全盛期、日本では「3K(きつい・汚い・危険)」という言葉が流行り、この言葉は敬遠されがちな仕事に対して使われてきた。著者は、テッセイの仕事を「3Kそのものだ」と主張している。しかし、テッセイのスタッフはみな表情が明るく、やる気にあふれている。矢部氏はその理由を会社が現場ありきの「全員経営」を目指しているからだと分析している。
「礼に始まり、礼に終わる」というのはテッセイのこだわりであるが、テッセイが提供しているサービスは単なる清掃ではない。「お客様に気持ちよく新幹線をご利用いただき、かけがえのない旅の思い出をつくっていただきたい」という思いが、テッセイのスタッフ全員に浸透しているのだ。
テッセイの親会社、JR東日本の石司副社長はテッセイに関して、「サービス、おもてなしに関してはテッセイがJRグループの1周も2周も先を行っている。もはや我々の力ではその勢いを止められない」と語っているそうだ。
本書に描かれているのは、そうした「3K」の職場でも生き生きと働ける現場の仕組みの数々だ。ハイライトではその一部しか紹介しきれていないため、興味を持った方はぜひ本書を手に取っていただければと思う。
矢部氏がテッセイへの異動を言い渡されたのは平成17年の話である。矢部氏は高校卒業後、旧国鉄に入社、以後安全管理を専門として働いてきた。テッセイへの異動が決まった時、矢部氏の胸には「なんでこんなところに」という相当な違和感があったという。というのも、当時のテッセイの評判はあまり芳しくなかったそうだ。
しかし、テッセイに入社してすぐに気付いたのは、テッセイの実情は外からのイメージとはかけ離れていたということである。
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