それはまったくの偶然だった。何かに導かれたように、僕はアメリカで「天職」に出会った。当時25歳の僕はハーバードに留学していたが、慣れない英語の授業についていくので精一杯。場所を選ばず、寝る間も惜しんで課題に取り組んでいた。
その日も空いている教室で課題をやっていたが、偶然、ティーチ・フォー・アメリカという教育系NPOを立ち上げた女性の講演会がここであるという。僕も課題のノートを閉じて彼女の講演を聞いてみることにした。
TFAはハーバードやスタンフォードといった大学を卒業する優秀な学生や既卒生を選抜し、独自にトレーニングをしたうえで、彼らを貧困地域や教育困難校と言われる学校に2年間教師として派遣する。その後、卒業生は投資銀行やコンサルティングファームといった人気企業のほか、政治や産業を問わず、さまざまな業界でリーダーとなって活躍する。また、卒業生の66%はその後も教育関係のフィールドに残り、教育界に貢献し続けるのだ。「優秀な人材を巻き込み、すべての子供たちに、質のいい学習環境を提供するのが私たちの使命です」彼女がこう言ったとき、僕はこれだ、と思った。
日本でも導入すれば、きっと必ずいい影響が出る。これだ。このしくみを日本にも取り入れる。ウェンディを見送りながら、僕は自分の考えにすっかり興奮していた。
2010年、全米就職人気ランキング(人文学系)で、グーグル、ディズニーを抑えて一位になったのがTFAだ。ハーバードを卒業する5人に1人はTFAへの就職を希望するが、採用されるのはその10分の1という狭き門だ。
企業はTFAの卒業生を非常に高く評価している。GEやグーグルなど名だたる企業が内定者に対して、入社の猶予を与えている。2年間TFAの活動を行えるのだ。
企業がTFA卒業生に対して特に高く評価しているのは、①リーダーシップ、②コミュニケーション能力、③問題解決能力の3つの能力だ。
困難校に派遣され、クラスをまとめる。生徒とはもちろん親との信頼関係もしっかりと築き、さらに毎日のように出てくる課題を解決する。こうしたことを経験していくことで、有名企業が欲しがる、次世代を担う優秀な人材に成長するのだ。
アメリカではTFA以外にもNPO団体が就職ランキング上位にきている。終身雇用が崩れ、自己成長の場としてNPOが注目を集める時代は、日本でも、もうすぐそこまで来ている。
僕は中学生のとき、いじめを体験した。殴る蹴るは当たり前。担任の先生や親にも相談できなかった。でも僕は幸運だった。所属していた陸上部の松野先生が気にかけてくれたのだ。
「なぜいじめられるんだろう」松野先生は僕に問いかけた。僕が考えた原因は「身長が低い」「筋肉がない」などの理由だ。先生に問われて「身長を高くするには」など。自分で考えるようになった。牛乳を飲む、十分な睡眠、トレーニングなどにより、僕は毎年10cm伸び続け、身体が大きくなると、いじめはぱったり止まった。
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