山口光は、大手製造企業の開発部で課長を勤めている。新商品の開発に喜びを感じてきたが、管理職になって以来、その情熱は弱まる一方で、マネジャーとしても伸び悩みに直面している。直近の人事評価では、予想以上に低い評価を受け、上司からは「部下のやる気や能力を引き出すようなコミュニケーション能力」と「人間としてのさらなる成長」の2点を改善せよと告げられた。
どうすれば現状を打破できるのか。鬱々とした気持ちを晴らすために立ち寄ったワインバーで、今後の自らの成長と組織の変革を大きく左右する出会いが待っていた。それは、成人発達理論をもとにした人財開発コンサルティングを行う室積敏正との出会いだった。
本書では、山口とコーチの室積の対話を通じて、山口自身と部下がどのように成長を遂げていくのかが描かれている。
成人発達理論とは、知識やスキルを発動させる根っこにある知性や意識そのものが、生涯を通じて成長・発達を遂げるという考えのもと、人の成長プロセスやメカニズムを解明する学問のことである。心が成長すると、視野が広がり、物事の深みや機微を認識できるようになり、部下の育成を促せるという。
人はそれぞれ独自の世界観、つまり「レンズ」を持っているため、世界の見え方は人によって異なる。この固有のレンズを「意識構造」と呼ぶ。質的に高性能のレンズがあれば、物事を俯瞰的に眺めたり、細かい点にも注意を払えたりする。こうした質的な差異を「意識段階」または「レベル」といい、意識段階が高くなればなるほど、物事を広く深く捉えられるようになる。ただし、意識段階が高い方が望ましい、というようにランクの高低が良し悪しに結びつくわけではないことに留意したい。さもなければ、ランクが高いものが低いものを抑圧したり、差別が起きたりする恐れがあるためだ。
また、発達理論においては、自分よりも上の意識段階を理解できないとされている。それは、建物の階が違えば見える景色が違うのと同様だ。意識構造は「器」に喩えられる。意識が成熟すれば、器が広がり、より多様な他者や曖昧なものを受容しやすくなり、多様な知識や経験を蓄えられるようになる。同時に、それらを咀嚼(そしゃく)し、統合する力も質的に変化するため、アウトプットも異なるものになるのだ。
人間の意識の成長・発達は、「主体から客体へ移行する連続的なプロセス」であるという。意識が成長するほど、つまり、ある意識段階から次の意識段階へと移行するほど、客体化できる能力が高まり、その結果、認識できる世界が広がる。次の意識段階に移行できてはじめて、これまでの意識段階を客観視できるというわけだ。
成人発達理論の大家、ロバート・キーガンによると、人間には5つの意識段階があり、成人以降は4つの段階があるという。成人のスタートラインとなる発達段階2は、「利己的段階」または「道具主義的段階」と呼ばれる。
この段階にいる人は、自己中心的な認識の枠組みを持っており、自分の関心や欲求を満たすために、他者を道具のようにみなす。また、自分の世界と他者の世界を真っ二つに分けて考えるため、相手の立場に立って物事を考える力が不十分である。
山口が手を焼いている部下Aも、この段階にいる。彼の良さを引き出しながら、チームワーク力を高めてもらうためには、チームのメンバーの考えや感情を理解する「二人称の視点」を育てることが欠かせない。その際、問いかけによって、部下自身の力で認識の枠組みを広げられるよう支援することが望ましい。なぜなら、
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