2015年3月に発表された日本経済新聞社とNTTコムリサーチが共同で実施した『人事評価に関する調査』のアンケート結果によると、20代~50代の男女ビジネスパーソンで人事評価に「満足」「どちらかというと満足」と答えたのは23.0%。一方、「不満」は33.7%と、「満足」を上回った。不満の理由は大きく次の3つに分類できる。
①上司などによる主観的な評価で客観性がない。
②そもそも評価基準が不明確。評価する人によって判断が変わってしまう。
③何をしたら評価されるのかわからない。
中でも、「評価基準が不明確」という理由が7割を超えており、突出していた。
日本には421万の企業があるが、具体的な評価基準を示している会社は、わずか1割程度にすぎない。多くの会社では、人事評価の基準が曖昧であるうえに、上司の個人的な「好き嫌い」が含まれている。「評価する側」の人たちは、この現状を真摯に受け止め、危機感を抱かなくてはならない。
著者はこれまでの約25年間、300社以上の人事制度の設計・運用や採用、教育研修に携わってきた。その中で、「成長している元気のいい企業」の人事制度の根幹は、ほぼ同じであると気づいた。つまり、あらゆる企業に通用する普遍的な「評価基準」があり、これを理解することで、さまざまな業界で通用する人材になれる。
人事の専門用語に「コンピテンシー」という言葉がある。これは「成果につながる行動」や「活躍する人に特徴的な行動や考え方」を意味し、これこそが会社が社員に求めている「評価基準」そのものである。会社が求めるコンピテンシーに沿った行動を実行することが肝となる。
課長クラスや部長クラスの人は、ともにマネジメント力が求められるが、その具体的な内容はかなり異なっている。
課長クラスは、部長から与えられた組織やプロジェクトの目標達成にコミットし、メンバーのモチベーションを保ち、相互に助け合う風土をつくるといった行動が求められる。いつも高い業績をあげ、部下からの人望も厚い「エースで4番でキャプテン」という人は、課長としてなら十分合格だ。
一方で部長クラスは、課長クラスよりも難易度の高い「戦略策定」や「目標設定」が求められる。中長期的な視野に立って数年後の会社のビジョンを具体的に描き、リスクも想定したうえで、めざすべき戦略を明示できる人こそ、部長として高い評価を得られるのだ。
そのため、いくら課長としての能力が高くても、戦略策定や目標設定のコンピテンシーを達成する能力がなければ、次のステップに進めず、次第に会社が持て余す「困った人」になってしまう。このように、次のキャリアステップに向けた行動を起こさない限り、評価は下がっていき、問題社員と化すのだ。
重要なのは、年次ごとに定められた普遍的な評価基準であるコンピテンシーを理解し、それに応じた行動を取ることである。
多くの会社は、困った社員に対し、その人の課題や求めるものを具体的に明示せず、伝える努力や指導もしていない。にもかかわらず、突然その社員にリストラを告げることがある。彼らが「社員に求めること」を明確にしない理由は、経営陣や人事担当者、または直属の上司に「いい人でありたい」という心理が働くからである。
3,400冊以上の要約が楽しめる