「病は気から」を科学する

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「病は気から」を科学する
出版社
出版日
2016年04月12日
評点
総合
4.5
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

「病は気から」と聞いても、たんなる精神論だと感じる人は多いだろう。しかし現実として、「病は気から」を実証するデータはいくつも存在するし、なかには奇跡としか思えないような現象も確認されている。

著者は科学ジャーナリストとして、心が体に及ぼす影響を科学的に解明することに魅了されてきた人物だ。プラセボ(偽薬)、催眠術、バーチャルリアリティ、瞑想、ストレス、バイオフィードバック、宗教など、本書がとりあげるトピックは多岐にわたる。とりわけ興味深いのは、心の力がもつ効果を裏づける研究結果や症例が紹介されているだけでなく、そうした研究への批判もしっかりと紹介されている点だ。いたずらに代替医療を賛美することなく、むしろ悪質なものに対して警鐘を鳴らしているあたりは、さすが『ネイチャー』などの編集に携わっていたゆえのバランス感覚といったところか。

本書の内容はどれも、心と体が非常に複雑に絡みあい、密接に結びついていることを示唆している。400年前、フランスの哲学者ルネ・デカルトは、主観的な「精神」と客観的な「身体」を分け、それぞれ独立した存在だと結論づけた。こうしたいわゆる心身二元論は、今もなお西洋社会に広く根づいている。だが、現代の哲学者や神経学者の多くはそうした考えをもはやナンセンスと見なしている。本書を読めば、その理由がわかるはずだ。

ライター画像
伊藤友梨

著者

ジョー・マーチャント (Jo Marchant)
科学ジャーナリスト。生物学を学び、医療微生物学で博士号を取得。『ネイチャー』『ニュー・サイエンティスト』などの一流科学誌で記者、編集者をつとめたのち、独立。『ガーディアン』や『エコノミスト』に寄稿。海洋考古学から遺伝子工学の未来まで、先端科学の専門家として執筆活動をおこなう。著書に『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』『ツタンカーメン 死後の奇妙な物語』(いずれも文藝春秋)がある。ロンドン在住。

本書の要点

  • 要点
    1
    健康に対する心の役割に関しては、今でも根深い偏見が存在する。科学界や医学界では、今も心の影響が無視または軽視されていることも少なくない。
  • 要点
    2
    外因的な問題そのものに害があるというよりは、それに対するストレスの多寡が健康状態を左右している。
  • 要点
    3
    人は瞑想することによりストレスが軽減し、心身の健康を向上させることができる。
  • 要点
    4
    代替医療にも欠点はある。しかし、私たちの抱える健康問題の多くが、心理的な原因にも起因しているのはたしかだ。だからこそ、患者の心をより尊重していく必要がある。

要約

偽薬――プラセボが効く理由

プラセボ効果とは
Eugene_Axe/iStock/Thinkstock

偽の手術を受けたにもかかわらず、実際に回復してしまった――そうした現象には、プラセボ(偽薬)のもたらす効果が大きく関わっている。

プラセボは医学分野ではよく知られているものの、科学者や医師たちは、プラセボをたんなる錯覚や幻想だと見なし、あまり重要視しないことが多い。しかし、プラセボは実際に治療に役立っている。そしてそれは、心自体に治癒力があることのなによりの証左ではないだろうか。

プラセボ研究のパイオニアのひとりである神経科学者のファブリッツィオ・ベネデッティは、1970年代、心理的な要素が体に及ぼす影響について興味を持ちはじめた。そして臨床試験をおこなった結果、プラセボ群の患者の反応は、実薬を与えられた患者と同等かそれ以上だったことを確認した。その後、科学者たちはその正体を突きとめた。脳内で産生されるエンドルフィンという物質がその役割を担っていたことがわかったのだ。

エンドルフィンはモルヒネなどと同じく、科学物質群に属している強力な薬で、天然の鎮痛剤として作用する。そのような物質を自力で産生できるということは、当時思いもよらないことだった。

プラセボにも限界がある

プラセボ効果の解明にキャリアを捧げたベネデッティは、その後も次々と新しい発見を重ねていった。信じる心により、痛みの反応を増減できることや、呼吸数や心拍数が左右されることもそこには含まれている。さらに、強力な鎮痛剤だと言われていた薬のなかには、プラセボ効果が出ているだけで、痛みに対する直接的な効果がまったくないものがあることも突きとめた。

他方、プラセボ効果の限界として、ベネデッティが明らかにしたのは以下のふたつだ。

1つ目は、治療を信じる心が起こす効果は、体が持っている天然ツールができる範囲に限られることである。偽の酸素を吸うことによって、脳が空気中の酸素濃度が高いかのような反応を示したとしても、実際の血中酸素を上げることはできない。

2つ目は、期待がもたらす効果は、特定の症状に限られることだ。プラセボ効果は、うつ病や不安、依存症など精神障害に対し、とくに強く働く。また、痛みや痒み、発疹や下痢、認知機能、睡眠や、カフェインやアルコールなど中毒性のあるものからの影響などに対しても効果が認められている。だが、コレステロール値や血糖値など、自分ではわからない値に影響をおよぼすことは考えにくく、病気の根源的なプロセスや原因に関わることについてもしかりである。

ストレス――格差と脳の配線

ストレスが病を引き起こす
OtmarW/iStock/Thinkstock

人の脳には、多くの他の動物と異なり、失敗から学んで未来を考える能力がある。しかし、その能力があるせいで、逆に未来について悩むことになり、それがストレスという問題につながっている。

絶えまないストレスは人の体を破壊してしまう。とくに、心臓血管系はその影響を受けやすいことで知られている。また、慢性的なストレスは、ワクチンに対する反応を弱めてしまうため、ストレスをためていると感染症に罹りやすくなりがちだ。さらに、たとえ喫煙や飲酒などを制限していたとしても、日々ストレスを抱えていると、特定のがんのリスクが高まってしまうという。

経済格差と健康格差は相関している

ジョージア大学の心理学者ジーン・ブロディは、ブラックベルトと呼ばれる貧困層の多い地域の家族の健康について研究をおこなった。それによると、この地域では心疾患や糖尿病など、慢性疾患の患者が家族にいる割合が大きい。つまり、

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要約公開日 2017.01.31
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