働き方改革を「目的」にしてしまうと失敗すると著者は主張する。そうすると、育児、介護休業制度の充実や在宅勤務制度の整備といった仕組み作りに終始してしまうからだ。福利厚生的な発想による労働環境整備にとどまっていては、企業の生産性アップにはつながらない。
福利厚生的な働き方改革だけでは、子育てや介護で60、70の力しか発揮できていなかった労働力を、せいぜい90にするという発想にしかならない。その場合、他の人たちから異論が出やすくなり、利用者が肩身の狭い思いをすることになり、制度が形骸化してしまう。
そこで、真に必要なのは、誰もが100以上のアウトプットを効果的に出せる働き方、つまり働き方の質の改善である。時間や場所、個人の事情を問わずそれぞれの力を最大限発揮できる環境を用意し、同じ労働時間でより大きな成果を出す「アチーブモア」を実現することが重要だ。
「アチーブモア」をめざす意識は、企業の寿命が大幅に短くなっている世界的潮流の中で、いっそう不可欠なものとなっている。現に日本の大手電機メーカーが台湾の企業に買収されるなど、日本の国際競争力も相対的に低下の一途をたどっている。
現在の「勝ちパターン」とは、世界との競争を意識し、スピード感を持って現場のニーズを吸い上げ、それを商品化することである。こうした環境下で成果を出すには、個々人の作業効率化にとどまらず、チームや組織を超えた連携が不可欠となる。すると、時間と場所の制約を超えて、複数名が同時並行で処理を進めなければならない。そこで役立つのがITツールだ。欧米の先進企業は最新のITツールを駆使して、効果的なコラボレーションを実現させている。マイクロソフトが提供する、オンライン会議用の「Skype for Business」や、組織がどんな業務にどれだけ時間を費やし、どんな連携がなされているかを分析・可視化できる「MyAnalytics」のようなサービスも、その一環である。
終身雇用制度、年功序列制度、企業内組合という、戦後の日本企業を支えてきた制度は、もはや過去のものとなりつつある。相対的に労働時間の少ない欧米諸国の多くが、日本よりも就労人口一人当たりのGDPや労働生産性が高い。今こそ日本人は、この事実に向き合わなければならない。
また、日本国内のみで成長戦略を見出すことが難しい現代において、「グローバルでも通用する働き方」を身につけることが、ビジネスパーソンとして生き残るための戦略となる。日本でも外国人の採用や活用に積極的な企業が現れつつある今、文化や価値観の異なる外国人が上司、同僚、部下になることが十分考えられる。そうなると、長時間労働を良いと見なしてきた日本特有の評価尺度は通用しなくなり、「いかに短時間で成果を上げるか」という評価軸が一気に浸透するだろう。
企業に今後求められるのは、個人が成果を残せるワークスタイルの実現であり、各個人のスキルの習得と向上を促すことである。そして個々人は、人材としての市場性を高め、これまで培ってきたスキルを、どんな環境でも再現できる能力へと磨き上げることを余儀なくされるだろう。働き方改革においては、「時間や場所に縛られない」という視点に加えて、「会社に縛られない」という視点も欠かせない。
こうして、より大きな社会的インパクトと働きがいをもたらすキーワードが「モダンワークスタイル」である。ここでの「モダン」とは、「社会や自分の置かれている状況に合わせた、変化に応じた」という意味だ。変化に対応するには、自分の意識を変え、固定観念にとらわれず、小さな進化を積み重ねることがポイントとなる。
「モダンワークスタイル」を「いつでもどこでも」実践することで、個人も企業もより高いアウトプットを生み出し、介護離職といった課題解決につなげられる。
2011年2月に品川にオフィスを統合して以来、ワークスタイル変革の聖地として、5年間で延べ80万人が見学にやってきた日本マイクロソフト。クラウドを活用した働き方や、変革の壁の乗り越え方が説明されている。そのオフィスツアーの一端を紹介する。
特徴的なのは、各部門の位置は明確に決まっておらず、チームの「島」は存在しないという点である。
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