新商品開発や定番商品のリニューアル、企業のコミュニケーション戦略の立案。著者が率いるデザインオフィスnendoには、こうした多彩な依頼が寄せられ、現在400以上のプロジェクトが同時進行しているという。
著者は、クライアントへの提案の数・質・スピードすべてを満たすことを重視している。クライアントにユーザー視点でデザインをとらえてもらい、議論を活性化させるのが狙いだ。
まるで息をするように渾身のデザインを生み出す舞台裏では、当然、大量のボツ案が積みあがっている。このボツ案にこそ、最高の発想を生み、プロジェクトを成功させるための本質が宿っているというのだ。
著者のもとにくる依頼内容は、「自社商品の売り上げを増やしたい」、「自分たちの得意な技術を活かして新規事業を立ち上げたい」など、多岐にわたる。こうした課題に対し、解決までの道筋と、その解となるデザインを示すのが著者の役割である。そのため、企業の経営戦略によって、おのずと提案するアイデアは異なってくる。
著者が心がけているのは、「極端に方向性の異なる案を多角的に提案すること」である。例えば、挑戦的な案と、徹底的に安全な案を提示し、各戦略に応じた商品やパッケージ、コミュニケーションをデザインする。すると、クライアント企業は多数の案をボツにして、一つの方向性に絞り込む中で、相当な覚悟を迫られる。こうして、絞り込んだ案をメンバー全員で磨き上げるにつれ、プロジェクトの成功確率が高まっていく。つまり、ボツ案がプロジェクトを推進するエンジンとなってくれるのだ。
複数の事業組織の課題を解決する新規事業を創造する際、著者はどのようにボツを活用していったのだろうか。ここでは、著者のクライアントで、理美容業界に長い歴史を持つタカラベルモントの例をとり上げる。
理美容業界は次の3つの課題を抱えている。1つ目は低価格化が進み、利用客の来店サイクルが長期化するという「市場の変化」である。2つ目は若いスタッフの技術力の育成が難しく、離職率も高いことによる「人材不足」。そして3つ目は利用客の嗜好の多様化によって、新しいサービスモデルの開発が進まないという「新コンセプトの欠如」だ。同社はこれらを解決する先見性の高いビジネスを生み出すことで、企業のブランディングにもつなげたいと考えていた。
著者はまず、同社の中で、理美容室向けの椅子を扱う「機器部門」、シャンプーなどの製造、販売を行う「化粧品部門」、そして理美容室向けインテリアデザインを提案する「空間部門」の3つの事業部を横断したプロジェクトチーム設置を提案した。部門同士が課題を共有し、ともに会社の未来を考えることが議論の活性化につながるという狙いだ。
著者は、3つの問題の解決の糸口を探すべく、まずは「機器」、「化粧品」、「空間」の3領域を書き出した。そして、そのうち2つの事業領域の共通課題を浮かび上がらせようとした。これには、1つの解決策を他の状況に重ねて新たなアイデアを炙り出すという著者の狙いがあった。
例えば「機器」の領域で、「立ち姿で全身のプロモーションを見ながらカットできるハイスツール」というアイデアを思いついたとする。今度は、これを「空間」の領域にも応用できないか考えてみる。すると「ハイスツールを使えば省スペース化が可能なので、空間の有効活用ができるかも」、「カットに特化して、カットの技術とスピードを売りにした高単価な理美容室はどうか」というように、隣接領域の課題解決につながるアイデアが出やすくなる。
アイデアを増殖させる効果的な方程式はほかにも存在する。例えば、人が当然だと思ってきたものに対し「それを逆手にとるとどうなるか?」と考えてみる。これは「逆張りの発想をする」という方程式だ。
つづいて、「ほかの業界にたとえるとどうか?」といった、アナロジーを使った方程式も有効だ。
3,400冊以上の要約が楽しめる