明日、機械がヒトになる

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明日、機械がヒトになる
出版社
出版日
2016年05月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

これはまた異色の本だ。だが、とにかく面白い。

著者の海猫沢 めろんは、溶接工やホストなどさまざまな職業を経たあと、小説家として2004年にデビューした人物だ。といっても本書は小説ではなく、最新の科学の現場を追ったルポルタージュである。小説家という立場にもかかわらず、なぜこのような科学ルポを書きあげたのか。海猫沢の語る理由はいたってシンプルだった。「テクノロジーがぼくたちの想像力を超えはじめている。その現場を見たい」。

テクノロジーはこれまでも、多くの不可能を可能にしてきた。だが、現在のテクノロジーの進化は、「人間」や「知性」の意味を変えてしまうかもしれないと海猫沢は述べている。たしかにテクノロジーが発達するいきおいはすさまじく、人間とテクノロジーの境目はこれからさらにあいまいになっていくだろう。

かつてデカルトは『方法序説』のなかで、人間そっくりの機械と人間を確実に見分ける方法として、(1)自由に言葉を使えるかどうか、(2)自由意思があるかどうかという判断基準を提示した。しかし、そうしたことが機械にもできるようになったとき、はたして両者を峻別することができるのだろか。

本書が提供するのは、これまで未到達だった領域へのロードマップだ。閉塞した旧来の人間観をこじ開け、新しい地平を目にしたいのならば、ぜひ本書を手にとってみてほしい。新たな人間観が立ちあらわれてくるにちがいない。

著者

海猫沢 めろん(うみねこざわ めろん)
1975年大阪府生まれ。小説家。様々な職業を経て文筆業につく。主な著書に、『零式』(ハヤカワ文庫JA)、『ニコニコ時給800円』(集英社文庫)、『左巻キ式』(星海社文庫)、『死にたくないんですけど iPS細胞は死を克服できるのか』(共著、ソフトバンク新書)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    SR(代替現実)はVR(仮想現実)を上回るリアリティをつくりだす。これにより、これまでむずかしかった主観的な体験の伝達もできるようになるかもしれない。
  • 要点
    2
    人間にとって最も理想的なインターフェースは人そのものである。
  • 要点
    3
    ロボットが発展した将来、人間は自らの存在価値を何に見出すのか迫られることになるだろう。
  • 要点
    4
    人間の「活動予算」は決まっており、たとえば原稿執筆作業には1日の29%程度しか使えない。
  • 要点
    5
    幸せを定量化することは、かえって多様性の促進につながる。

要約

SR――虚構を現実にする

心の問題を「見える化」できるか
Zinkevych/iStock/Thinkstock

現実と虚構の境をなくす技術といえば、VR(仮想現実)が有名だ。だが、SR(代替現実)システムが提供するリアリティはさらにその上をいく。実験室でSRを体験した海猫沢は、本当に現実と虚構の区別がつかなくなるほどだと話す。

SRシステムの研究をしているのは、理化学研究所の脳科学総合研究センターに所属する藤井 直敬(ふじい なおたか)たちのチームだ。ふつう、主観的な体験というのは相手に伝えようとしても、完全には伝えられないし、再現することもできない。だが、SRシステムなら、ヘッドギアをかぶった瞬間に、「ああ、こういう感じか」とある程度実感できてしまう。平たくいえば、「他人の視点」の共有ができるのだ。

本来、科学において、心の問題を扱うのはとてもむずかしい。これまで神経科学はfMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)などで心の問題を解き明かそうとしたが、結局はデータという数量的なものしか研究の土台に上げることができず、主観的なものを研究することはできなかった。だが、SRなら心の問題を「見える化」できるかもしれない。

テクノロジーは幽体離脱を可能にする

SRを使えばもっとすごいこともできると藤井は語る。それは幽体離脱だ。

SR内でカメラをそのへんに置いてライブ映像を見せる。すると、自分の視点が体ではなくカメラのほうに移ってしまい、まるで幽体離脱をしたような感覚を味わうことができる。さらに、カメラの位置を何カ所かに動かしていくと、自分ではない別の所に自分の視点は持っていかれたままになる。それをずっと繰り返していると、部屋に自分が充満したような気になり、神のような視点になるのだという。

SRで人類は進化する

藤井は、SRをみんなに体験してもらえる環境をつくりたいと考えている。そうすれば、認識もしくは認知のレベルを、1段階上のレイヤーに上げることができるからだ。

たとえば、SRを用いて物事を別人の視点で見ることで、共感能力をアップデートするということもできる。現実の複数性を同時に体験することも可能になる。最終的には、SRで人間を進化させることすらできるかもしれない。

人類の進化というと荒唐無稽に感じられるかもしれないが、ネットやスマートフォンが日常化し、人類がこれほど細かいデータを脳に出し入れする時期は、これまで存在しなかった。SRシステムはあくまで基礎研究だが、この成果がいつか身近なデバイスで使われるようになれば、そのとき私たちは気づかないうちに進化するかもしれない。藤井はそう考えている。

大見出しアンドロイドは人間のように夢を見るか

機械はやがて人型になる
abidal/iStock/Thinkstock

日本のアンドロイド研究の第一人者である石黒 浩(いしぐろ ひろし)は、2007年にCNNの「世界を変える8人の天才」に選ばれ、同年、英 Synetics 社の「世界の100人の生きている天才」で26位になった、世界中が注目する研究者である。

私たちが人間型ロボットに興味をもつ理由として、石黒は人のもつ「人を認識する機能」をあげる。現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェースではない。最も理想的なインターフェースは人のカタチをしたものである。そして、その人間らしさの究極系としてあるのが、アンドロイドだというのだ。

「最も理想的なインターフェースは人そのもの」という石黒の発言にたいし、疑問を覚える人も多いかもしれない。実際、今の工業用ロボットや携帯電話は、人のカタチをしていないのも事実だ。しかし、

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要約公開日 2017.01.30
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