現実と虚構の境をなくす技術といえば、VR(仮想現実)が有名だ。だが、SR(代替現実)システムが提供するリアリティはさらにその上をいく。実験室でSRを体験した海猫沢は、本当に現実と虚構の区別がつかなくなるほどだと話す。
SRシステムの研究をしているのは、理化学研究所の脳科学総合研究センターに所属する藤井 直敬(ふじい なおたか)たちのチームだ。ふつう、主観的な体験というのは相手に伝えようとしても、完全には伝えられないし、再現することもできない。だが、SRシステムなら、ヘッドギアをかぶった瞬間に、「ああ、こういう感じか」とある程度実感できてしまう。平たくいえば、「他人の視点」の共有ができるのだ。
本来、科学において、心の問題を扱うのはとてもむずかしい。これまで神経科学はfMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)などで心の問題を解き明かそうとしたが、結局はデータという数量的なものしか研究の土台に上げることができず、主観的なものを研究することはできなかった。だが、SRなら心の問題を「見える化」できるかもしれない。
SRを使えばもっとすごいこともできると藤井は語る。それは幽体離脱だ。
SR内でカメラをそのへんに置いてライブ映像を見せる。すると、自分の視点が体ではなくカメラのほうに移ってしまい、まるで幽体離脱をしたような感覚を味わうことができる。さらに、カメラの位置を何カ所かに動かしていくと、自分ではない別の所に自分の視点は持っていかれたままになる。それをずっと繰り返していると、部屋に自分が充満したような気になり、神のような視点になるのだという。
藤井は、SRをみんなに体験してもらえる環境をつくりたいと考えている。そうすれば、認識もしくは認知のレベルを、1段階上のレイヤーに上げることができるからだ。
たとえば、SRを用いて物事を別人の視点で見ることで、共感能力をアップデートするということもできる。現実の複数性を同時に体験することも可能になる。最終的には、SRで人間を進化させることすらできるかもしれない。
人類の進化というと荒唐無稽に感じられるかもしれないが、ネットやスマートフォンが日常化し、人類がこれほど細かいデータを脳に出し入れする時期は、これまで存在しなかった。SRシステムはあくまで基礎研究だが、この成果がいつか身近なデバイスで使われるようになれば、そのとき私たちは気づかないうちに進化するかもしれない。藤井はそう考えている。
日本のアンドロイド研究の第一人者である石黒 浩(いしぐろ ひろし)は、2007年にCNNの「世界を変える8人の天才」に選ばれ、同年、英 Synetics 社の「世界の100人の生きている天才」で26位になった、世界中が注目する研究者である。
私たちが人間型ロボットに興味をもつ理由として、石黒は人のもつ「人を認識する機能」をあげる。現在のスマホや携帯は、人間にとって理想的なインターフェースではない。最も理想的なインターフェースは人のカタチをしたものである。そして、その人間らしさの究極系としてあるのが、アンドロイドだというのだ。
「最も理想的なインターフェースは人そのもの」という石黒の発言にたいし、疑問を覚える人も多いかもしれない。実際、今の工業用ロボットや携帯電話は、人のカタチをしていないのも事実だ。しかし、
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