競争としてのマーケティングの表紙

競争としてのマーケティング


本書の要点

  • マーケティングでは自社の強みや弱みにのみ目を向けるのではなく、競合との相対関係を加味する必要がある。「自社が何をしたいか」ではなく「競合が何をさせてくれるか」を考えるべきだ。

  • 自社の製品やサービスが生き残るには、いかに顧客の心に強いインパクトを残せるかがカギとなる。もしすでに先駆者がいるなら、新たなカテゴリーを創って先駆者となればよい。

  • マーケティングにおいて戦い方はひとつではない。ライズとトラウトは規模によって企業を4つのパターンに分類し、それぞれのパターンに適した戦い方を提唱している。

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「顧客志向」の終焉

自社ではなく競合の強みと弱みを分析せよ

solar22/iStock/Thinkstock

現代マーケティングのベースとなっている基本理念は、顧客と見込み客の欲求をつかみ、それを満たす商品を提供することで利益をあげるという「顧客志向」だ。これに基づき、企業はこぞって顧客のニーズやウォンツを見出してはそれを満たす商品を市場に送り出してきた。だがその結果、市場には類似商品が溢れかえってしまった。それに対しライズとトラウトが提唱するのは、競合および競合品にもっと目を向けよという「競争志向」である。企業が生き残るにはまず、顧客および見込み客の心の中に存在する競合の分析から始めるべきだというのが彼らの主張だ。マーケティングをする際、「SWOT分析」という、自社の強みと弱み、市場の機会と脅威を洗い出すというフレームワークを用いるケースは多い。だが、競争志向においては従来のSWOT分析をそのまま使うのではなく、競合との相対関係における自社の強みや弱みを分析することがなによりも重要になる。「自社が何をしたいか」ではなく、「競合が何をさせてくれるか」「競合に対して何ができるのか」をまず考えるのである。2015年、ラグビーワールドカップで日本代表は、パワーを誇る敵チームに対し、パワーではなく速いテンポや正確なキックなどによって応戦した。そして「世紀の番狂わせ」とまで言われる勝利をおさめた。マーケティングにおいても、これと同様の戦い方をすべきである。

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【必読ポイント!】 心を制する者はマーケティングを制す

人の心に「ポジショニング」する重要性

マーケティングにおいては、その主戦場となる「人の心」がどういうもので、どのように動くのかを理解できていなければ、効果的な戦い方をすることはできない。ライズとトラウトは「人間の心は過去に得た知識や経験から判断できる情報しか受け入れない」と述べている。たとえば日本人は、インチやポンドに関する知識や経験がないため、「身長67インチ、体重132ポンド」と聞いても見当がつかない。しかし、「身長170センチ、体重60キロ」と聞けばすんなり理解する。このように、マーケティングでは、すでに人の心にある知識や経験に関連づけて説明することが肝心なのだ。たとえば、かつてテープレコーダーを新たに宣伝する際、メーカーは「声のカメラ」というキャッチフレーズをつけた広告を出した。このフレーズによって人々は、テープレコーダーを「声を録音する機器」であると容易に認識できたのである。

とにかく一番手になることを意識する

Nastco/iStock/Thinkstock

「人の心の中に入り込む簡単な方法は『一番手』つまり先駆者になることだ」とライズとトラウトはいう。「世界初」「日本初」「業界初」と名のることができれば、強烈なインパクトを人の心に与えることができるからだ。実際、「世界初のカップ麺は?」と聞かれたら、日清食品のカップヌードルを思いうかべる人は多いだろう。だが、二番目に開発されたカップ麺を知っている人が果たしてどれだけいるだろうか。このように、一番手と二番手以降では、かくも大きな開きがあるのである。

自分が一番になれるカテゴリーを創りだせ

すでに一番手がいる場合は、自分が一番手になれる新しいカテゴリーを創出するべきである。スズキは、軽自動車がもつ本来の実用性にくわえて、キャンプやアウトドアスポーツのようなレジャー利用も提案する、新しいタイプの車「ハスラー」を開発した。そして主流のワゴン車と多目的スポーツ車(SUV)を融合させた「クロスオーバー」なる新カテゴリーを創りあげた。「遊べる軽、出た!」と謳った広告は、従来にはない遊び心を印象づけ、スズキはダイハツから軽自動車販売台数首位の座を奪還した。また、顧客の心にある古いアイディアや商品を追い出すことでヒットした商品もある。

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要約公開日 2017.02.06
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