わかりやすく物事を伝えるには、「何をどのように伝えるべきか」を、事前に自分の頭の中で考えておく必要がある。言いたいことが伝わらないのは、決して相手の理解力が足りないからではなく、言いたいことを整理できていないという、伝える側の思考不足のせいだ。よく整理された内容ならば、ストレートに伝えるだけで、誰もが理解できる。話し方や文章術のような「伝える」テクニックよりも、「伝わる」ように内容を整理することを重視するほうが、成果につながる。
トヨタ式には「付加価値をつけて伝える」という思想がある。これは、「1」の情報を「1」として伝えるのではなく、「2」「3」ときには「10」にしなければならないということだ。しかし、情報量が多くなればなるほど、相手には伝わりにくくなってしまう。
そこで、トヨタ式ではシンプルに思考をまとめるための2つの方法が存在する。それは、「伝えたいことにタイトルをつける」ことと、「伝えたいことを3つにまとめる」ことだ。トヨタでは、資料づくりの際、プレゼンソフトを使わずに、A3またはA4サイズの紙1枚にまとめるよう決められている。なぜなら、量が多いと読む側の負担が大きくなるうえに、発案者が資料のレイアウトや図表の作成に時間を費やして、考え抜く作業をおろそかにしてしまうからだ。このように、シンプルにまとめる習慣が、ムダのない考え方をする思考風土を生み出している。
伝える力を身につけるのに効果的な方法の一つは、常にプランBを用意することである。たとえどんなにプランAが素晴らしいアイデアだとしても、それはあくまで主観的推測に過ぎない。代替案と比較検討することが求められる。
もし異論がないとしたら、自分自身で異論を想定することが欠かせない。異論がないということは、リスクや失敗の恐れを考慮しにくくなることにほかならない。それらを気に留めないと、万一のトラブルに対応できなくなってしまう。
また、トヨタでは「予測値」「いい情報ばかりのデータ」「課題のない報告」などの資料はNGとされた。最もムダなのは、現場を見ていない報告である。自分の思い込みやネットの情報を頼りにした提案は、現実離れしており、結局は役に立たないからだ。現地現物に即した情報こそが、高い説得力を持ち、相手をうなずかせる。
目標を達成できる人とできない人の差は、目標を数値化したり、期限を設けたり、他の人と目標の達成状況を共有しあったりするなど、目標の「見える化」でモチベーションを高められるかどうかにある。人間は、目標を達成するための道筋が不明瞭になっていると、なかなか達成に向けた意欲がわかない生き物なのだ。
また、目標を立てたら「やり切る」のがトヨタ式である。やり切るためには、当事者だけでなく、関係者みんなが関心を持ち続けられるような環境をつくることが必要となる。
熱意を見せない人の言葉は、たとえ正論であっても相手の心に伝わらない。人の心を動かすには、熱意を示すことが何よりも大切である。熱意が「伝わる言葉」や「協力したくなる行動」に変化していくと、黙っていても相手が協力してくれるようになる。
指示はするが行動で示さない者は、口だけだと思われてしまう。しかし、みんながなかなか動かないときこそ、言い出した者が率先して行動を起こせば、周りからも信頼を得られる。自ら動くことで、伝わる速度が一気に加速される。
ビジネスで大切なのは、「話し合い」よりも「聞き合い」である。相手の意図やニーズをくみ取り、相手の懸念や課題に耳を傾けて意識するからこそ、豊かに伝えることができる。もし相手に話が伝わらないとすれば、それは自分に聞く態度が不足しているからだろう。相手の意見に耳を傾け、信頼関係を築きながら仕事を進めることこそ、実は最もスピーディーなやり方である。
トヨタ式では、伝わったかどうかは、相手がその内容を実行に移したかどうかで判断される。部下に改善を促したいからといって、「がんばろう」と励ますだけでは無意味だ。
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