現在、日本に存在する企業のうち、99.7%が中小企業である。従業員数を見ても、約7割が中小企業で働いている。
一方で、大企業への信奉はいまだ根強い。たしかに、手厚い福利厚生をはじめ、大企業勤めをするメリットは少なくない。こうしたことから、安定志向をもつ学生は、大企業で働くことを望む傾向にある。
だが、ある企業に就職したとして、一生そこで安泰ということはもはや稀である。企業規模にかぎらず、栄枯盛衰が世の常だ。倒産にいたらずとも経営状態が不安定になることは、大企業でもけっして珍しい話ではない。
大企業なら安定するという言説は、あくまで一般論にすぎない。また、安定の指標としてしばしば取りあげられる、平均年収の違いも同様である。結局のところ、一般論や平均値は参考程度にしかならないのである。
私たちはニーズが多様化した世の中に生きている。こういう世の中では、中小企業は有利に立ち回れる。というのも、小回りの利く中小企業は、ニッチな欲望によりうまく対応できる可能性が高いからだ。
また、中小企業の小回りの良さは、細やかな動きが必要な社会運動への関与にも向いている。事実、NPO(非営利団体)やNGO(非政府組織)が取りくんでいるような社会問題を、ビジネスを通じて解決するソーシャル・ビジネスには、中小企業規模のものが多い。
中小企業は従業員数が少ない。これをポジティブに捉えるならば、いろいろなことを経験できるということである。経験は成長にとって一番のチャンスだ。大企業よりも早くから、責任ある仕事を幅広く体験できることは、若いうちに中小企業に身を置くことの最大のメリットだと言えるだろう。
とはいえ、過度のやりがいによる「バーンアウト(燃えつき症候群)」や、「やりがい搾取」などの問題もある。このあたりは、バランスをとることがむずかしいので注意が必要である。
また、意思決定権限をもった人、特に社長との距離が近いことも、中小企業ならではの利点だといえる。大企業においては、中心人物たちと仕事をするまでに、かなりの年数を要する。
一方、中小企業では社長の声を近くで聞けるため、自社の仕事の意義を耳にする機会が自然と多くなる。経営学においては、仕事の意義や企業のアイデンティティを認識することが、職務満足に影響するといわれている。気骨あるトップの肉声に触れることは、充実感をもって仕事に励むことを促進してくれるだろう。
中小企業には多くのチャンスがあるが、そのチャンスを実りあるものにするためには、それ相応の力量が求められる。大企業とくらべて人員が少ないため、中小企業に勤める人は、ある程度自力で「戦力」と認められるように成長しなければならないのだ。
戦力になるためには、その職場における「当たり前」ができるようになる必要がある。だが、これがなかなかむずかしい。日本の経営学の第一人者である伊丹敬之は、「当たり前のことを6割の人が行なっている企業は優良企業である」と述べている。それだけ「当たり前」を守ることは簡単ではないのだ。
職場のルーキーにまず求められるのも、「ヒットを打つことよりもエラーをしないこと」である。とはいえ、最初は誰でもエラーをするのが普通だ。エラーをするのはやむをえない。
むしろ重要なのは、
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