世界を席巻するスタートアップ企業の多くは「世界を変えたい」というシンプルな思いを行動に移すことから生まれている。ちょっとしたアイデアを大きなビジネスに変える起業家たちの、どのような考えや習慣が成功につながるのだろうか。本書の著者エイミー・ウィルキンソンは、5年におよぶインタビューと調査、研究から、起業家たちが共通して持つ6のスキルを導き出した。
(1)ギャップを見つける
常に注意を払いながら、ほかの人が気づかないチャンスに目をつける。
(2)光に向かって進む
常に未来に目を向け、自分が進むべき方向、注目するべき点をわかっている。
(3)OODAループを飛行する
思い込みを持たず、世の中の変化のスピードに応じて「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「行動(Act)」できる。
(4)賢く失敗する
小さな失敗を重ねなければ、致命的なミスを避けられないことを理解している。
(5)知恵のネットワークを築く
多面的な問題解決のために、多様な人材の能力を集めそれぞれの発想を活用する。
(6)小さなギフトを贈る
親切に相手をサポートし、情報を共有し、作業に協力し、仲間にもチャンスを提供する。
これらの6つのスキルを習得するのに特別な専門知識は不要である。学習して実践する意欲があれば、誰でもアイデアをビジネスに変えることができるという。
6つのスキルのうち「ギャップを見つける」は起業家が最初に必要とする能力である。まだ誰もが気がつかない潜在的なニーズを見出し、そのニーズを満たすための新たな方法を見つけ出す能力を指す。本書では、見つけたギャップを埋めるのにどのようなプロセスを用いるかによって起業家を3つに分類している。
一つは「サンバード型」である。既存のモデルを転用して、新しいものを生み出そうとするタイプである。スターバックスのCEOであるハワード・シュルツは、カフェを職場と自宅の間でくつろげるような「第三の場所」にしようと思いつく。当時のアメリカにはなかったスペースであったが、イタリアでカフェがコミュニティーの場として機能しているのをアメリカに転用しようと試みたのだ。
サンバード型の人は、なぜ成功しているのかの理由や仕組みを調べて、自分はどこをまねるか、そしてどこを変更するかを考える。彼らは、表面的類似と構造的類似の二つに分けられる「類似性」に着目するのである。
二つ目の「アーキテクト型」は、ゼロからアイデアを構築するため、まずは何が無いのかを探す作業を始める。欠けているものに注目するため、他の人が見逃してしまうものに注意を払い、つじつまの合わないことを簡単に片づけず、気づいた点にこだわる。
友人との会話からNASAの火星探査に興味をもったイーロン・マスクは、既存のロケットがなぜ高価なのか、疑問に思った。ロケットについてさまざまな調査を行った結果、ほぼ全てのロケットが注文生産で再利用されていないことがわかった。航空機でもフライトのたびに廃棄されればコストは膨大なものになるだろう。マスクは再利用できるロケットをつくることが問題解決のカギと考えた。しかし既存のロケット業界はリスクを避け、無駄にコストを引き上げ、問題を複雑にするばかりであった。技術的改善を図るには新しい企業が必要と考えマスクは自身でスペースX社を創業することになる。
彼のようなアーキテクト型は子どものような初心を忘れずに、思い込みに疑問を持ち、別の方法を探す。マスクはモノ作りの経験がなかったが、理論の根本となる基本要素の第一原理を見つけて、合理的な判断をしながら自分でロケットを作っていった。彼は数回の失敗を経たことで問題の本質を把握し、4回目で打ち上げに成功。その後、マスクはNASAと16億ドル以上の契約を結び、ロケットの設計、生産に邁進している。
アーキテクト型とは対照的に、既存の要素を組み合わせてハイブリッド型の成果を生み出すのが「インテグレーター型」である。
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