政府にかぎらず、一般的に大きな組織は変化をきらうものだ。だが政府は特にその傾向が強い。なぜなら、膨大な規則や規制、法律に縛られているため、自分たちに何が許されているのかよくわからなくなってしまっており、これまでと同じやり方を続けたほうが無難だと考えるようになっているからだ。新たなテクノロジーに抵抗するのは、政府にとってごく当たり前の反応なのである。
実際、政府の歴史を紐解いてみると、それがテクノフォビア(テクノロジー恐怖症)の歴史だということがすぐにわかる。たとえば、議会がテレビに適応するには長い歳月が必要だった。今の公聴会には照明機材なども入り、クオリティの高いテレビ中継がされているが、その実現にかかった年月はなんと60年である。インターネット革命の受け入れにも、このままいけば途方もない歳月がかかるだろう。
人々と政府との間の溝はますます広がっている。その溝を埋めるためには、政府がテクノロジーに適応していく他ない。テクノロジーがもたらすオープンさ、そして透明性を受けいれることは、政府にとっては簡単なことではないが、それは「民主主義の第2期」に到達するために欠かせないステップなのだ。
官僚主義を打破すること、時代遅れの政治のあり方をアップデートすること、政府を構成している生身の人間を映しだすこと、信頼を取り戻すこと。テクノロジーの導入はこうした重大な課題の解決に結びつく。政府がそれを受け入れさえすれば、すべてが変わっていくのである。
著者がサンフランシスコ市長だった2002年、サンフランシスコは記録的な数のホームレスを抱えていた。各人への給付額は月額400ドル近くになっており、その助成金の額はカリフォルニア州内でも群を抜いて高かったため、大勢のホームレスがサンフランシスコに流入した。こうした人口移動により、大きな社会問題が引きおこされた。助成金が手渡される毎月1日と15日になると、きまって泥酔した人々で緊急病院がいっぱいになり、犯罪は増加した。直接的にも間接的にもコストは膨大になり、市は苦境に陥った。
著者は当初、リベラルという立場から現金給付に賛成していたが、現実的にはそれがホームレスの人々の暮らしを改善しているとは言いがたいことがわかった。そこで現金給付を月額59ドルに削減し、残りをホームレスのための住宅やサービスに直接振りわける「ケア・ノット・キャッシュ(現金給付ではなくケアを)」を提案した。そのほうがホームレスを支援するうえでより良いと考えたからだ。
だがホームレスの支援者たちは、これまでの施策を変えようとするいかなるチャレンジにも反対した。それまで市がホームレス問題についての具体的なデータを一度も収集してこなかったため、誰もが好き勝手に反対意見を出すことができたのだ。彼らは街で拾った逸話を語り、そうした伝聞を公共政策策定の基礎にするべきだと市に要求した。
「データ」と聞いて、無味乾燥で退屈なものを思いうかべる人は少なくないだろう。しかし本当の意味でホームレスを助けるために、データは必要不可欠だ。データを読み解くことが、市民の真のニーズを知り、それが満たされていない原因を理解することにつながるからである。抽象的な議論を交わしているだけでは問題は解決しないのだ。
そこでまず著者は、市職員や管理職、数人のボランティアからなるグループを結成し、行政サービスが行きとどいていない地域に赴き、住民たちの不安や悩み事を聞きとった。数週間連続で街に出かけるうちに、この「プロジェクト・ホームレス・コネクト」は次第に大きくなっていき、相談会場も小さな体育館から大きな講堂に移された。そして企業や非営利組織がテーブルを設け、法律相談から足のケア、視力検査、歯科検診、鍼治療などのさまざまなサービスを無料で提供できる場所にした。この施策により、ホームレスへの支援と貴重なデータの収集が同時にできるようになった。
とはいえ、いくらデータを収集しても、そのままではうまく扱いにくい。
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