気候変動は、他の環境問題とはまったく異なるし、他のどんな公共政策問題とくらべても特異な存在だ。気候変動は(1)全世界的な現象であり、(2)長期間続くのが確実である。しかも、気候変動は(3)不可逆的であり、(4)不確実性がきわめて高い。これら4つの要因を「ビッグ4」と呼ぶ。
まず、(1)気候変動は世界的な現象だ。このことは、まともな気候施策の実施を妨げる大きな要因のひとつとなっている。たとえば、費用が地元の負担となるのに、その便益が全世界的となったら、有権者たちの多くは公害制限を導入したがるだろうか。
次に、(2)気候変動は長期性の点でも独特である。過去10年は、人類史上で最も暖かい10年間だったし、その前の10年は、2番目に暖かい10年だった。変化が最も露骨なのは北極圏で、北極海の氷は過去たった30年の間に、すでに面積の半分を失い、体積にいたっては4分の3を失っている。だが、それすらも最悪の影響のほんの始まりにしかすぎない。
さらに、(3)気候変動は不可逆的だ。炭素排出をいきなり止めたところで、これからさきの何十年にもわたる温暖化、そして何世紀にもわたる海面上昇を覆すことはできない。こうした変化は長期的であるだけでなく、止めることがほぼ不可能である。
そして最後に、最も大きな特徴として、(4)不確実性がきわめて高いことがあげられる。なにしろ、なにがわかっていないのかもわかっていないのが現状なのだ。
今ある最高の気候モデルによる温度予測では、海面が20メートルも上がるとは予測されていない。これには2つの重要な理由がある。
第一に、ほとんどの気候モデルは必要以上にわかっていることのほうに偏っており、あまりに保守的になっているからだ。ごく最近まで、気候モデルのほとんどは海面上昇を予測する際、主に海面の熱膨張だけに基づいており、氷床の融解の影響を含めていなかった。極氷冠の融解についての科学的理解があまりにとぼしかったのである。
第二に、気候モデルはたしかにさまざまな部分を正確に示しはするが、気候の動きについてはまだわかっていない根本的な問題がいくつもある。たとえば、世界平均だけの数字を見ていると、局所的に起こっている変化を見逃すことになりかねない。また、前述したように、そもそもわかっていないことすらわかっていないという問題も潜んでいる。
人類が排出する地球温暖化公害物質の量、排出と大気中濃度の関係、濃度と温度の関係、温度と物質的な気候被害との関係、物理的被害とその結果――それらのすべてで不確実な点が残されている。しかも、社会がそれらにどんな対応策をとり、それがどの程度の効果をもたらすかも未知数だ。
気候変動の問題に対応するための唯一の正しいアプローチは、炭素を燃やすことに対して、社会への真の費用を反映した適切な値付けをすることである。それを実現するためには、税金をかけるという手段と、二酸化炭素の排出量に上限を設け、人々にその範囲内での取引をうながすという手段(キャップアンドトレード方式)の2つが考えられる。どちらのアプローチがすぐれているかについては、議論の決着はついていないが、きちんと行なわれるならばどちらでもかまわないだろう。
問題は、どうやって現実世界でそれを実現できるかということだ。世界はいまだに二酸化炭素1トンあたり15ドルもの補助金を出している。むしろ、正しいやり方は、1トンあたり40ドルの負担を上乗せするべきなのにもかかわらず、である。そこには既得権益や、複雑な政治プロセスといった問題が、密接に絡みあっている。
本書では、そういった政治的な局面に深入りすることはせず、基本的な経済学に立ち戻り、2つのトピックに的を絞る。
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