第2次世界大戦後に始まった欧州統合は、西欧の政治家が主導し、それを民衆が許容する形で行われた。スプラナショナル(超国家的)に経済統合を進めることで、欧州に平和と経済的繁栄をもたらそうというのが狙いである。これは欧州統合の父の1人であるフランス人ジャン・モネにちなんで、「モネ方式」と呼ばれている。
EUでは複数の主権国家が主権を制限しながら存続し、主権を共同行使する仕組みになっている。これによって、EUはトランスナショナル(国境横断的)な関係を構築することに成功した。EU内では、物、人、サービスおよび資本の自由な移動が確保され、それによって生まれる財やサービスも国境を越えて自由に取引される。EUはこうした仕組みによって、経済的繁栄をめざしているのである。
EUは現在、3つの大きな危機に直面している。ギリシャ債務問題、難民問題、そしてイギリスのEU離脱問題だ。これらは共通して、EUの制度に起因し、その制度自体を揺るがす内部的な問題である。
2009年にギリシャで過大な財政赤字が露見したのをきっかけに、これが欧州債務危機へと発展した。この問題はEUの懸命な対応により、2013年にはなんとか収束した。しかし、発端となったギリシャでは国民の不満が蓄積するなど、未解決の問題が横たわったままである。
また、難民問題も深刻である。EUの外ではシリアの内戦を逃れてトルコなどに避難していた人々が、難民申請をしてドイツやスウェーデンなどに向かうようになり、その数が急増している。現在では、どの加盟国がどれだけ難民の受け入れを負担するかをめぐって、EU内で亀裂が生じ、共通の政策が破綻しかけている。
さらには、イギリスのEU離脱によって、ウクライナ問題をはじめとする対ロシア関係の弱体化や、世界経済における影響力の低下など、大打撃を被る可能性がある。イギリスに追随する加盟国が現れるリスクが高いことも、懸念の一つといえよう。
2002年から流通が始まった単一通貨のユーロは、参加各国の健全な財政を前提としている。そのため、ユーロに参加するには、財政赤字の対GDP比3%以内、政府債務の対GDP比60%以内といった、厳しい条件をクリアする必要がある。
ギリシャがユーロに参加したのは2001年だが、ギリシャ政府は審査の前提となる財政統計を粉飾しており、実際には参加条件を満たしていなかったのだ。しかし、EUの憲法に当たる基本条約でユーロの不可逆性が定められていたために、ギリシャをユーロから離脱させる法的根拠がないと判断された。
EUの基本条約は、救済禁止と健全財政を建前としている。そのため、危機管理のための金融支援枠組みが用意されておらず、ギリシャ問題に対するEUの対応は後手に回った。このように、ギリシャの能力不足に起因したギリシャ問題は、EU基本条約の根本を揺るがした。
イギリスと大陸欧州諸国との関係は、イギリスが加盟する前から良好とは言えなかった。加盟後も、加盟条件の再交渉、予算問題、ユーロや司法・内務協力への不参加などの不和が生じていた。
欧州統合の大原則は、すべての加盟国が足並みを揃えて前進することである。加盟国はEUで決まったすべての政策に参加するよう義務付けられている。しかし、イギリスは基本条約の改正のたびに、同意する見返りとして、自国が望まない政策への不参加を認められている。
例えば、イギリスは本来加盟国の義務である単一通貨ユーロに参加していない。また、国境管理、難民庇護政策や警察・刑事司法協力などの「自由・安全・司法領域」の政策分野にも不参加である。
一方、イギリスはEUの単一市場には加入しており、他の加盟国との密接な経済的関係を築いている。このように、イギリスはEU加盟から多大な経済的利益を得る一方、様々なオプトアウト(政策への不参加)といった特別扱いを受けている。そんなイギリスがなぜEUから離脱することになったのだろうか。
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