弁論術

未読
弁論術
出版社
出版日
1992年03月16日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

アリストテレスといえば、古代ギリシアの哲学者であり、「万学の祖」としても知られる人物だ。ただ、その著作は抽象的で難解だと思われがちであり、読むことを躊躇している人も少なくないのではないか。

しかし、本書は現代でも通用するれっきとした実用書である。アリストテレスは、弁論術を「どんな場合でも、可能な説得の方法を見つけ出す能力」と定義した。「弁論は経験による『慣れ』にすぎない」としたプラトンを否定し、成功の原因を観察し方法化することによって、弁論を「技術」として成立させようと試みたのである。

聴き手の心を揺さぶって判断を歪めさせる従来の弁論手法ではなく、説得の根拠となる材料を集め、論理的に積み上げていく手法を、アリストテレスは重視した。それは本書自体が、頑強な論理の積み重ねから成り立っていることからも明らかだろう。たとえば、「よいもの」「幸福」といったよく使われる言葉についても、意味を曖昧にさせたまま用いずに、1つ1つ厳密に定義をしながら論理を展開している。また、今でこそ論理学の基本となっている三段論法も、もともとはアリストテレスが整備したものだ。

時の洗礼を受けてきた古典というだけあって、この1冊があれば、弁論や説得、話し方に関するその他の書物は不要になってしまうかもしれない。そう言いたくなるほどの読みごたえだ。ぜひ折を見て、通読に挑んでみてほしい。

著者

アリストテレス
(前384~322)
ソクラテス・プラトンと並ぶ古代ギリシア三大哲学者の一人。プラトンの門下生として「アカデメイア」で学ぶ。プラトンの死後はマケドニアでアレクサンドロス3世の家庭教師を務め、前335年に再びアテネに出て学園「リュケイオン」を開設する。
政治・文学・倫理学・論理学・博物学・物理学などほとんどあらゆる学問領域を対象とし分類と総括を行ったことから、「万物の祖」と呼ばれる。

本書の要点

  • 要点
    1
    弁論術とは聴き手を説得する技術で、相手を説得するために必要な要因は「話し手の人柄」「聴き手の心理状態」「話される内容の論理性」の3つである。
  • 要点
    2
    弁論は聴き手の性質によって「議会弁論」「法廷弁論」「演説的弁論」の3種類に分類でき、それぞれ聴き手は「利/害」「正/不正」「美/醜」を判断する。
  • 要点
    3
    離される内容の論理性を担保するためには、弁論の根拠として「例証」と「説得推論」をうまく用いるべきである。これは3種類の弁論すべてに共通して有効な説得手段となる。

要約

弁論術の定義

弁論術とは相手を説得する技術である
RYGERSZEM/iStock/Thinkstock

弁論術とは、相手を説得する技術のことである。医術なら健康、算術なら数といったように、たいていの技術は特定の領域を専門とするが、弁論術はあらゆる種類の問題を対象とし、特定の専門知識を必要としない。また、他の技術は、どれも唯一の結論を導くためのものだが、弁論術は、相反する主張のどちら側に立っても、その主張の正しさを論じるものである。

これまでの弁論術の技術書は、論証の部分を軽視していた。むしろ、裁判官を怒らせたり、同情を誘って判断を歪めさせたりといった、本筋とは離れた部分にのみ重きが置かれていたといえる。

しかし、本来の弁論術の目的は、説得を成し遂げることそのものではない。それぞれの問題にふさわしい説得の方法を見つけ出すことこそ、弁論術の真の目的なのである。

説得するために必要な能力とは

弁論術は、言論によって相手を説得する。そこには、(1)話し手の人柄(エートス)、(2)聴き手の心理状態(パトス)、(3)話される内容の論理性(ロゴス)の3つの要因が関わっている。

そのうち、最も強力と言っていいほどの説得力を持っているのが、(1)話し手の人柄だ。なぜなら、人柄の優れた人物に対しては、素早く、そして多くの信頼を置くものだからである。

対して、(2)聴き手の心理状態は、これまでの弁論術が盲信的に重視していたものであり、本筋ではない。しかし、人がそのときの状態によって下す判定を変えるというのは事実であるため、聴き手の感情について学ぶことは依然として有用である。

最後に、(3)話される内容の論理性は、説得力のある論を打ちたて、それが真であることを証明することである。これについては後述する。

弁論術の使い手は、人柄や徳、人間の感情について深く考察でき、かつ論理的に推論できる人物でなくてはならない。

弁論における3種類のコツ

弁論の種類は、聴き手の性質で分けられる

聴き手の立場を基準に考えると、弁論は3種類に分けられる。

まず、聴き手は、公的な結論を出す判定者か、それとも単なる見物人かのどちらかに分類できる。また、判定者に関しては、未来に起こりうることに対して判定をするのか、過去のできごとについて判定をするのかによって、さらに区別が可能だ。

未来のできごとを論ずる場としては、議会が挙げられる。議会で行われるのは、ある行動の勧奨か制止かのいずれかだ。その判定を下す基準となるのは、聴き手にとっての「利/害」である。

一方、過去のできごとを判定する代表的な場が法廷だ。法廷では、罪の告訴または弁明が行われ、聴き手はそれに対し「正/不正」という基準で判断する。

聴き手がただの見物人の場合、彼らが注目するのは話し手の能力である。話し手の演説に注目する彼らは、「美/醜(その行為の優劣)」を基準に、判断を下す。

議会弁論のコツ――信頼を勝ち取る
Stockbyte/Stockbyte/Thinkstock

議会弁論では、「話し手の人柄」が重要になる。話し手が信頼される人間になるためには、思慮・徳・好意(友愛)の3つを持たなければならない。

ここでの思慮とは、知性における徳のことをさす。思慮があるからこそ、いかにして幸福になるか、そのためによいもの/悪いものは何かを判断できる。

徳は、人に利益をもたらす能力だといえる。

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要約公開日 2017.01.11
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