どの企業も、高い理想を掲げ、高額の経費をかけてシステム開発をスタートさせるものだ。しかし実際にはなかなか思い通りにはいかない。収益アップどころか、逆に競争力を落としてしまうケースもある。
お金をドブに捨てる結果になるのは、システム開発の典型的なパターンに陥ってしまっているからだと著者はいう。製造業N社を例にとろう。情報システム部は、生産本部での入力の負荷が増える旨の了承をとっていた。それなのに、導入が進んでから生産本部現場の猛反発に遭い、結局開発中止となった。
また、管理業務の電子化をめざした建設業F社では、現行業務を守る声に耳を傾けすぎた結果、数億円かけて現状とほとんど変わらないシステムをつくることになってしまった。つづいて小売業H社では、各店舗へのヒアリングが不十分だったせいで、システムが導入されてからクレームの嵐となり、追加開発で莫大な資金を費やすはめになったという。
3つの事例に共通するのは、開発の前に明確な「システム構想」がなかったという点だ。システム構想があいまいだと、途中で出てきた意見や不平不満によって簡単に方向性がぶれ、「稼げるシステム」からは遠ざかってしまう。
システム開発では要件定義が重要だといわれているが、要件定義は細かな要求を実現するためのものであり、大きな変更をする場面ではない。新しいシステムを導入する際は、構想の段階で、「現場の作業時間がどのくらい変わるのか」「作業はどの部署が担当するのか」というところまで検討し、「これなら導入できる」という確信が得られてから開発を始めるべきだ。
もちろん、開発に携わる人はみなシステム構想の重要性を理解している。しかし、複雑化した業務に対応するには、高機能で大規模なシステムが必要なため、情報システム部の知識や経験だけでは、すべてを網羅できないのである。
システム構想づくりを成功させるために、著者は「経営」「会計」「業務」「システム」の4つの視点で考えることを提案している。これらを押さえれば、システム視点に偏りがちな開発のバランスを取り、「稼げるシステム」を生み出せるのだ。要約では、「経営」「業務」の視点を取り上げる。
優れたシステム構想は、「何をどこまですべきか」という目標やビジョンが明確なものだ。この基本方針がないと、開発は理想と現実の間で揺れ動き、結局現状の業務にのっとった代わり映えしないものになってしまう。
システムには、素早い意思決定や売上増を可能にする「攻め」の要素と、作業の効率化やコスト削減を実現する「守り」の要素がある。「稼げるシステム」は攻守ともに優れているものだが、特に「攻め」をおろそかにしないことが重要だ。
日本の従来型のシステムは「守り」に片寄ったものが多い。しかし、ビジネスの基本は売上を立てることであり、売上さえあれば、多少のコスト高は回収できる。だからこそ、システムを単なる道具ではなく収益を高めるための「武器」として考え、「攻め」と「守り」のバランスのとれた基本方針を打ち出すべきだ。自社に不足しているものや、強化すべきポイントを洗い出し、あとでぶれないような明確な方針を作成しよう。
システム構想の基本方針をつくるのは、ほかでもない経営者である。システムのことはわからないからと尻込みしてしまう経営者もいるが、細かい内容にまで踏み込む必要はない。今後の事業の方向性や、いつまでに何を達成するかといった事業戦略がしっかりしていれば、それがそのまま基本方針になるはずだ。「ライバル企業に勝つため、納期を30%短縮する」「業務改革による管理部門の人件費3割削減」というように、数字とその根拠を核にしたものが望ましい。
しかしもっとも大切なのは、基本方針が単なるお題目でなく、
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