人工知能が金融を支配する日

未読
人工知能が金融を支配する日
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人工知能が金融を支配する日
著者
出版社
東洋経済新報社
出版日
2016年09月01日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

突然だが、金融とテクノロジーという言葉から連想するのは何だろう? 世界的ブームとなっているフィンテックだろうか。日本では、クラウド家計簿やクラウド会計といった、個人や中小企業向けの便利なサービスという印象が強いように見受けられる。しかし、海外では、それにとどまらず、銀行や証券会社など、金融のあり方を抜本的に変革しようとするビジネスモデルが次々と誕生している。これを可能にしたのは人工知能の飛躍的進歩である。そして、最高のテクノロジーはフィンテックという表舞台だけでなく、秘密のベールに包まれた裏舞台、ヘッジファンドでこそ活用されているという。

本書では、メディアではほとんど報道されていない金融業界と人工知能の現状が描き出されている。IBMやGoogleの人工知能研究者が、次々とヘッジファンドに引き抜かれている。ヘッジファンドでは、驚異的なスピードと精度で意思決定と取引を行うロボ・トレーダーの開発によって、富を独占しようとする動きもすでに生じている。さらには、金融業界の多くの職種が人工知能に代替されていくと予測されている。ファイナンスとテクノロジーを熟知した著者の鋭い分析と大胆な予言に、度肝を抜かされるにちがいない。

人工知能は金融を支配する勢力図や、その職種の構成、内容をガラッと一変させるにとどまらず、私たちの生活をも激変させる可能性が高い。そういった意味でも、本書は金融業界に携わる方はもちろん、どの業種の方にとっても示唆に富んだ書であるはずだ。

ライター画像
松尾美里

著者

櫻井 豊(さくらい ゆたか)
金融市場と金融商品、及び金融技術の専門家。1986年に早稲田大学理工学部数学科を卒業し東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。2000年にソニーのネット銀行設立メンバーに加わり、ソニー銀行執行役員市場運用部長などを経て2010年よりリサーチアンドプライシングテクノロジー株式会社(RPテック)取締役。入行以来ほぼ一貫して金融市場におけるさまざまな金融商品を用いたトレーディング、資産運用などの業務に従事し、金融市場の実態、理論とそこで使われる技術を熟知する。主な著書に『数理ファイナンスの歴史』(金融財政事情研究会)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヘッジファンド業界は、最高の人工知能技術者をIBMなどの企業から引き抜き、人工知能の研究開発を秘密裏に進めている。
  • 要点
    2
    驚異的な速度と精度で取引の意思決定と執行を行うロボ・トレーダーが、相次いで世界の金融市場に進出している。
  • 要点
    3
    人工知能の進化に寄与したのは、多階層のニューラルネットワークを使った機械学習である「深層学習」だ。
  • 要点
    4
    オズボーンの論文「雇用の未来」によると、金融の中核を担ってきた職種の多くが、今後ロボット化される可能性が高いという。

要約

金融とテクノロジーの裏舞台

ロボット化が進む金融市場

人工知能の手法自体の飛躍的進歩により、金融界が大きく変貌を遂げつつある。とりわけヘッジファンド業界は、最高の人工知能技術者をIBMなどの企業から引き抜き、人工知能の研究開発を秘密裏に進めている。ヘッジファンドとは、少数の金持ちの個人や機関投資家から大口の投資資金を私的に集めて自由に運用するファンドを指す。実際のところ、最近の株式市場や為替市場、そして原油などの先物市場では、すでにロボットが闊歩している。

では日本の金融市場ではどうなのか。東京証券取引所でも、2010年にアローヘッドという超高速ロボ・トレーダーが導入されたのを皮切りに、ロボットが相次いで金融市場に進出している。ただし、そのほとんどはアメリカから上陸したもので、日本は金融のロボット化に大きな後れをとっているのが現状だ。

とはいえ、金融業務はお金、財務諸表、市場価格といった数字ばかりで成り立つビジネスであるため、ロボットやビッグデータ分析との親和性が高い。より高性能なロボ・トレーダーが金融市場を席巻していくという未来に疑問の余地はない。結果として、必然的に人間トレーダーの全体的なパフォーマンスは悪化していく。そんな時代の到来が間近に迫っているのだ。

【必読ポイント!】 金融市場はロボ・トレーダーだらけ

超高速ロボ・トレーダーの取引戦略
ktsimage/iStock/Thinkstock

ここからはロボ・トレーダーの具体的な動きについて説明していく。アルゴリズム取引とは、コンピュータのアルゴリズムを利用して株や為替などの取引を行うことである。コンピュータは、人間が執行するより迅速かつ有利に取引を完了させられる。近年では、執行だけでなく取引の意思決定も同時にロボットが行うというアルゴリズム取引が登場している。このように、人間の関与なしにコンピュータが自動的に判断と実行を行うマシーンを、ロボ・トレーダーと呼ぶ。

その中でも、特別なスピードで取引を行う超高速ロボ・トレーダーは、数百ナノ秒(100万分の1秒)単位の争いを繰り広げている。2010年時点ですでに、アメリカの株式市場の6~7割の取引は、超高速ロボ・トレーダーが担っていたという。

超高速ロボ・トレーダーの主な戦略の一部を紹介する。一つは市場に一時的にゆがみが発生したチャンスを利用して、ほぼ無リスクで安く買い、高く売るという裁定取引である。その中には、顧客が注文を送信してから各取引所に注文が届くまでのわずかな時間差を利用して、先回りすることで、一般の投資家が気づかぬうちに上前をはねるという方法もある。

もう一つの戦略は、市場の動きに連動して継続的に売りと買いの価格提示をし、売りと買いの売買幅や、マーケットメーカーに支払う手数料をねらうという「マーケットメイク」である。いずれも、瞬間的な状況判断と、圧倒的な執行スピードが物をいう。

変化しつつある金融市場の取引の主戦場
khyim/iStock/Thinkstock

金融市場におけるマーケットメイクは、これまでウォール街の金融機関や日本のメガバンク、大手証券会社などの独壇場であり、彼らの大きな収入源であった。しかし、伝統的な金融機関の役割は低下の一途をたどっている。

その理由の一つは、株や為替が人間のブローカーを通じてではなく、21世紀に入り、全面的に電子取引で行われるようになったためである。また、リーマン・ショック後、国際的に厳しい規制がなされ、金融機関の店頭デリバティブ取引に対する優位性がなくなったことも大いに影響している。活発な取引の主役は、大手の資産運用会社やヘッジファンドへと移行しているのだ。

今、ヘッジファンドは何を考えているのか?

これまでヘッジファンドの成功事例において、カリスマ投資家の経験と勘を頼りに、収益を上げるというケースが目立っていた。しかし、この伝統的なスタイルは21世紀になって衰退傾向にある。

90年代からヘッジファンドの拡大を牽引したのは、数理・統計的な理論やモデルによる価格分析を重視して取引を行うヘッジファンドであった。これを「クオンツ・ファンド」と呼ぶ。クオンツ・ファンドの多くでは、投資判断から取引の執行までをロボットが自動的に行うと同時に、その手の内を公にはしないために、人知れずヘッジファンド業界の覇者になりつつあるのだ。

クオンツ・ファンドの先駆的な事例が、ルネッサンス・テクノロジーズ(以下、ルネッサンス)である。

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要約公開日 2017.01.13
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