日本にとって「平和で安定した時代」はもうすぐ終わりを迎える可能性が高い。国際政治学には、「ひとつの国家が世界的な覇権を握ると、国際システムが安定する」というセオリーがある。現に日本はその恩恵を受けてきたものの、米国はもはや覇権国とは言いがたい。
2016年、中間層からの支持を得たドナルド・トランプが大統領選に勝利した。これまで米国が歩んできたグローバル路線で恩恵を受けてきたのは、下位10〜60%の主に新興国と上位1%の超富裕層の家計だった。一方、中間層の家計の所得は横ばいか下落となっている。そのため、中間層がグローバル化に反対し、保護主義のトランプを支持した。
トランプ大統領は、日米同盟や米国のアジア戦略を大きく変える可能性があると言われている。そうなると日本は対米一辺倒の外交から脱却を図り、自立を求められるはずだ。
著者は2020年が大きなターニングポイントになると考えている。日本にとって次の4つの節目を迎える年だと予想されるからだ。1つ目は東京五輪。2つ目は安倍政権(アベノミクス)の終焉。3つ目は東京の人口減少。そして4つ目は団塊世代の引退である。東京五輪が終わると、日本には国全体の明確な目標がなくなってしまう。現時点では外交で成果を残している安倍政権も、経済対策の面では評価が芳しいとはいえず、金融緩和や財政出動の効果が切れた後に、日本経済は勢いを失いかねない。加えて、東京の人口が2025年に1398万人でピークを迎え、2050年までに1274万人まで減少し、東京は50代中心の都市になる見込みだ。
そんな中、2020年の東京五輪は団塊世代の卒業式になる。著者は、まだまだ元気な団塊世代も、東京五輪以降は「若い世代に譲ろう」という境地に至るのではないかと考えている。こうして2020年前後に新しい時代「日本3.0」の幕が開けるのだ。
そもそも日本3.0とは何か。日本では、新しい時代の始まりにおいて、必ず何らかの革命が起きていた。
明治改元から1945年の敗戦までが第1サイクル(日本1.0)とされる。また、敗戦から未曽有の経済成長を遂げてバブル崩壊後、衰退を続ける2020年までが第2サイクル(日本2.0)と考えられる。いずれも、移動の自由と下克上を原動力に、社会システムが根底から変化する「ガラガラポン革命」が起きたのだ。この革命が70~80年の周期で起きるという法則を考慮すると、2020年前後に第3サイクル(日本3.0)が来ると予想される。その際、30代が主役になるという。
理由は3つある。まず30代はどの時代でも経験と無知のバランスが絶妙な年代であり、組織で責任を担う一方、組織に染まらず自由な発想ができる。次に、30代は上の世代とは異なる価値観を持っている。インターネットやケータイに親しんでおり、ベンチャーや外資系という選択肢がある。過去の伝統にとらわれず、自助自立の精神を持っているのが30代の特徴だ。
さらに、30~45歳の世代は数が多い。2015年時点で団塊世代を含む60〜74歳が約2600万人なのに対し、団塊ジュニアを含む30〜45歳は約2250万人と拮抗している。政治、経済、社会、あらゆる面で数は力になる。よって2020年前後は30代にとって勝負の時期になる。著者はめざすべき「日本3.0」の全体像を、国家、経済、仕事、教育、リーダーという5つの観点から解説している。要約ではその一部を取り上げる。
2013年9月、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が「AIやロボットによって、米国の雇用の47%が消える可能性がある」という衝撃的な発表を行った。AIやロボットで仕事が激減するというのは誇張しすぎであるが、今後業務を定型化しやすい事務職や調整役しかこなせない管理職については、大幅に削減されるだろう。著者は、中途半端なホワイトカラーにかわって、企業で必要とされるのは以下の7つのプロに絞られると予測する。
(1)少人数のトップマネージメント:社長をはじめとする経営メンバーを指す。決断すること、ビジョンを示すこと、リーダーを発掘し育成すること、結果を出すことを職務とする。
(2)スリム化されたバックオフィス:AIの効率化を経て、少数精鋭でファイナンスや広報・IR、人材採用、リーダー教育などの戦略業務を担う。
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