麺屋武蔵がオープンした1996年は、ちょうどインターネットの大ブームの時期と重なる。それまで口コミかテレビ、雑誌くらいでしか得られなかったおいしいラーメン店の情報がインターネットを通して得られるようになり、麺屋武蔵は「行列の店」として注目を集め始めた。
麺屋武蔵という店名は、無敵の剣豪、宮本武蔵からきている。初代店主の山田雄(たけし)は、師を持たずに独自のやり方で道を切り拓いた宮本武蔵のスタイルに惹かれた。「世の中に出ていない目新しいもの」を発掘し、オリジナルを提示したいという思いを店名に込めたという。
山田氏は、スタッフの行動指針として、ことあるごとに「それ、カッコいいからいい」「それ、カッコ悪いからダメ」という言葉を投げかけた。「カッコいい」は単に姿形がいい、オシャレだということではなく、「新しいこと」「手間ひまがかかって難しいこと」「よく考え込まれていること」という意味だ。その判断軸は「自分で自分を見てどうか」であった。仕事に対し後ろめたいことがあれば「カッコいい」とは言えない。決して妥協せず、「カッコいい」にひたすらこだわり続けてきたことで、麺屋武蔵の今がある。
ラーメン店は新規参入がしやすいため、競争は激化の一途をたどっている。その中で生き抜いていくには「トップになるんだ!」という強い覚悟が欠かせない。「2位じゃダメなんですか」と必ず聞かれるが、ダメである。トップでなければ覚えてもらえないからだ。
また、トップはレースの主導権を握ることができる。例えばスマートフォンのトップであるiPhoneは価格を主導できるため、圧倒的優位なポジションにいる。
著者は、麺屋武蔵がラーメン業界のなかでトップという気概を持って働いている。個人の仕事でも同様に、皿洗い、声の大きさ、笑顔など、何らかの分野でトップを極めれば、誰かに認められる。トップを走ることが勝ち残る極意なのである。
ラーメン業界の変化のスピードは年々速くなっている。状況に応じて変化していかないと生き残ることはできない。
麺屋武蔵では、著者の入社当初、普通のラーメンが人気で「つけ麺」はほとんど売れていなかった。しかし、つけ麺は満腹に食べられて、うまみの刺激も強いという魅力を持つ。今後必ずはやるはずだと信じ、つけ麺を中心メニューにした店舗を新たに出したところ、これが大成功した。今では全店舗のつけ麺の注文数はラーメンを抜いている。ラーメンに固執していたら今のような成功は収めていなかったと言えるし、これからもつけ麺に固執するつもりはないという。世の中の流れやお客様のニーズをいち早く察知し、行動し、変化に挑戦し続ける。変化こそが麺屋武蔵の真髄である。
麺屋武蔵には、「ゲンキ・キレイ・イイアジ」という行動指針がある。元気な接客・清潔・メニューの品質の高さ(おいしさ)を意味しており、麺屋武蔵ではこの順番を大切にしている。一般的には「味」が一番とされているが、麺屋武蔵では「ゲンキ」つまり、サービスが第一と考える。「キレイ」が2番で、「イイアジ」は最後である。なぜなら、「ゲンキ」と「キレイ」をちゃんとやれば「イイアジ」は結果としてついてくるからだ。
また、お客様の側から見ても、味の好みは十人十色だが、サービスや清潔さに関しては、人によって大きなブレがない。決して味を軽視しているわけではなく、お客様の満足度を上げるために意識すべき順番を指しているのだ。この「イイアジ」を「いい本」などと他のものに置き換えれば、他の業種でもあてはまるサービスの極意となるだろう。
人の味覚は比較的鈍感で、「○○店の○○シェフが作った」と言われると誰もがおいしく感じるという。つまり、食べる前が大切ということだ。
3,400冊以上の要約が楽しめる