これまで日本では、高学歴→有名一流企業入社→裕福な年金生活という人生が成功とされてきた。しかし、この勝ちパターンは崩れつつある。一流企業では厳しい社内競争が待っており、そもそも一生安泰の企業などないに等しい。また、定年まで働けたとしても、潤沢な年金は望めないだろう。
こうした変化のなかで、リスクをとって起業家になる人が増えてきている。日本社会は、起業が異端の選択肢とされた20年前とは大きく様変わりしている。いよいよ日本にも起業の時代が訪れたといえる。
著者たちは、多くの起業家やその予備軍たちの悩みに対しアドバイスをするなかで、次のように強く感じたという。それは、社会に貢献したい、世界を変えたいという高い志と、ビジネスや商品のすばらしいアイデアを持っているにもかかわらず、経営に関するビジョンや計画を煮詰めている人が非常に少ないということだ。会社を大きく発展させるには、いま手がけているビジネスのゴールを具体的に設定し、次のステップとしてどのような行動をとるかを明確にする必要がある。
マラソンを例に考えてみよう。ただ「長距離を走れ」と言われるのと、「ここから10キロ先のA地点まで1時間以内で走れ」と言われるのでは、心持ちも準備も異なってくる。ゴールや設定条件が明らかならば、それを達成するのに、どれくらいの練習や、どんなアイテムが必要なのか、具体的な準備ができる。反対に、目標設定があいまいだと準備のしようがない。起業も同じだ。漠然とした思いで走り出してしまうと、ペース配分が決められず、事業を続けるべきかどうかの判断もできなくなる。
そこで「5年後にマザーズ上場をめざす」といった明確な目標が非常に重要となる。そして、たとえ目標が達成できなかったとしても、「なぜ達成できなかったのか」を検証し、課題をあぶり出すことができる。
起業家の講演会などのイベント会場を見ると、起業に関心を持つビジネスパーソンが増えていることがわかる。しかし、実際に起業する人はまだまだ少ないのが現状である。
なぜ、日本では起業をする人が少ないのか。その理由は、起業後の不安が拭えないからだといえる。起業に失敗はつきものではあるが、事前にきちんと知的武装をしていれば避けられるリスクは多く存在する。
起業を検討するときに最初に考えるのは、自分、あるいは創業メンバーが資本金を全額出資して設立する株式会社だろう。株式会社の特徴のひとつに「取締役会への経営権の委任」がある。これは株式会社の「所有と経営の分離」を意味する。しかし、日本の企業の99.7%を占める中小企業の多くはオーナー経営であり、実質的に所有と経営が一体になっている。そのため、パワーとリスクの分散がなされないのだ。
本来オーナー経営者は、出資の範囲内で有限責任を負うにすぎない。
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