小泉改革による不良債権処理と公共投資の削減の開始以降、地方経済はこれまでにない困難に直面した。だが、その大打撃から這い上がった地方の経営者たちも少なからず存在する。
彼らにはいくつかの共通点がある。まず、多角化展開があげられる。本業が厳しくなり自ら新しい事業をスタートすることもあれば、経営者の高齢化により別の会社から事業譲渡を受ける場合もある。いずれにせよ、地方の金融機関からの後押しも手伝い、介護事業、携帯電話販売、コンビニのフランチャイジーなど、サービスや販売に関係する事業を広く手がけていることが多い。
また、30代〜50代と比較的若く、チャレンジ精神が豊富で、リスクテイカーであることも共通している。彼らの多くは商売を営む家で育っており、商売での失敗や再起がどのようなものか、肌感覚でわかっている。そのため、かりに事業に失敗することがあっても、すぐに這い上がってくるタフな精神力をもっている。
さらに、勉強意欲も高い。勉強会やセミナーによく参加し、人脈形成にも積極的で、コンサルタントからの経営指南にも耳を傾ける。占い好きで、「運」や「縁」を大切にするという人も少なくない。
都市部で活躍する「ベンチャーの虎」ほど世の中に認知はされていないものの、「ヤンキーの虎」の総数はベンチャーの虎のそれをはるかに凌ぐ。そのため、雇用の受け皿としても、日本経済の重要なプレイヤーとしても、あるいは投資先としても、今後の大きな成長が期待されている。
ヤンキーの虎は、情報収集力に優れている。東京で流行しているものや、これから流行りそうなものを見つけて地元に持ち帰る「ミニタイムマシン経営」が得意なのだ。
たとえば、「コッペパンに牛乳」で育った人々にとって、「クロワッサン、ミルクにバター」という組み合わせは高級感が感じられ、とくに団塊の世代のあいだで人気がある。こうした傾向は、都市部よりも高齢化の進んだ地方で強い。
そこに目をつけ、地方でおしゃれなパン屋を経営する経営者。それが典型的なヤンキーの虎である。専用の機械を導入し、素人でも上手に焼けるようにしたベーカリーレストランのサンマルクや、カフェを併設し、日中の高齢者の居場所を作ったコメダ珈琲などは、その好例といえるだろう。
株式会社ファーストグループの代表取締役である藤堂高明氏は、二代目社長として自動車整備業を中心に、車の販売・保険・レストランなど多方面に展開する「ヤンキーの虎」だ。先代の時代に売上高1億6000万円、7000万円の赤字を出していた事業を、11年間で売上高30億円へ急成長させた手腕で知られている。
その秘密の一端はフランチャイズ化だ。フランチャイズ化し、徹底した社員教育を行ったことで、サービスの質を上げつつコストを下げた。そして、それまでその地域では考えられなかったような施策を次々打ち出し、お客さんの数をどんどん増やしていったのである。
M&Aを繰り返しながら、事業の拡大と多角化を一気に進めてきた藤堂氏の手法は、その地域の消費者や社会を巻きこんで、お互いが生きる道を築くために協力する「生態系」を生みだしている。
たとえば、自動車整備業と車の販売業という組み合わせは、車を販売した数年後にお客さんが再訪する循環をつくっている。また、自動車整備業に特化した投資運営専門会社をつくることで、利益が出せるようになったら買収する仕組みも整えた。さらに、顧客情報をシェアすることで、それぞれの規模を拡大していく戦略もとっている。
縮小する地方経済のなかで利益を得るためには、自社の外にある新しいチャンスを常に探さなければならない。だからこそ藤堂氏は、今の事業の延長線からではなく、飛躍的な事業拡大、非連続性の成長をめざしている。この「事業意欲の強さ」こそが、ヤンキーの虎の特徴といえる。
丸和運輸機関の社長である和佐見勝氏は、トラック一台から運送業を始め、2015年4月に東証一部上場を果たした、典型的な「成り上がり型」である。
周囲からの進学のすすめや反対を押しきり、「母の病気を治すため、成人までに独立」することを掲げ、中卒で東京日本橋の青果店に修行にでた。
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