かつてのBCGはクライアントへの戦略提案や戦略コンセプト提示、そしてその実行支援に注力してきた。しかし、環境変化の速度が速まり、イノベーションを起こしても短期間で他社に追随されるようになったことを背景に、より持続性のあるやり方を提案すべきではないかと考えるようになった。それが「イネーブルメント」、すなわち「クライアントが持続的に優れた業績をあげるために必要な組織能力を高める支援」である。
コンサルティング・プロジェクトの効果は通常、時間の経過とともに減衰する。イネーブルメント・プログラムは効果の低減を食い止め、上昇へともっていくことを目標とする。プログラムの具体的な柱は「カギとなる組織能力の特定」「スキル構築」「ビジネス・プラットフォームの構築」である。
戦略を実行し持続していくためには、ビジネス・プラットフォームの刷新が必要である。従業員が望ましい行動を取りやすい組織構造を整備し、果たすべき役割やプロセスを定義していく。このようにして組織能力を高めることで、持続的に高い成果を上げ勝ち残っていくことができる。
BCGが主要企業300社以上を対象として行った調査によれば、対象企業の半数以上で明確なプライシング戦略が構築・実行されていなかった。多くの企業でプライシングに関し適切なスキルを持った人材が不足しており、プライシング関連の機能を組織のどこに置くか、誰が主導すべきかに悩んでいる。
一方、プライシングの巧みな企業はプライシングを担当する部門を戦略企画的な部署として扱い、結果、そうではない企業よりも1~2ポイントほど高い利益を上げている。組織能力としてプライシングの機能を高めるためには、売上高5億ドル規模の企業でも少なくとも5名、50億ドル規模であれば一般的に14名の専任チームが必要である。
国内外食チェーンA社では売上と利益拡大をめざし、価格改定(実質的な値上げ)を行うプロジェクトを発足させた。値上げに際しては顧客離れが懸念されたが、競合他社の価格分析や消費者意向分析などから価格改定を行うメニューを絞りこんで実行した結果、マージン額を増加させることができたばかりか、既存顧客の購入頻度向上、新規顧客獲得も実現した。
多様な文化・言語を前提に組織設計・運用が行われてきた欧米の企業では、企業運営のルールが誰にでも分かりやすいよう「形式知化」を進めてきた。すなわち、可能な限り、職務のすべてを論理的に明文化しトップダウンで組織を動かしてきた。しかし、事業環境変化のスピードが加速する中、すべてを「形式知化」することは組織運営を繁雑化させ、スピード・品質を落とすこととなった。
一方、日本企業ではトップが細部まで指示しなくても現場の従業員が自身で考え、判断する「自律」の文化、部門を超えて協力する「協働」の文化があった。しかし、日本企業が海外拠点でのオペレーションを拡大させるに従い、こうした組織運営の方法の限界が明らかになってきたため、欧米企業流に明確化されたマネジメントが導入されるようになり、「自律」「協働」の文化が失われる傾向にある。
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