顧客は、提供されるサービスに対して、驚くほどすばらしい体験を期待しているわけではない。顧客が期待しているのは、自分が注文した通りのものが、トラブルなどの不快な出来事をともなわずに、約束どおり手元に届けられることだけである。
逆に言えば、企業がどんなに良いサービスを提供していても、それが顧客の事前期待と異なっていれば、顧客は不満を抱くし、トラブルに発展してしまうことも珍しいことではない。
顧客の期待に応える商品やサービスを提供するためには、まず企業のサービス内容をきちんと顧客に理解してもらうことが肝要だ。
そのためには、マーケティング活動全般において一貫した誠実さが求められるが、それだけでなく、顧客にも商品やサービスの契約書や取扱説明書をしっかり読んで理解してもらうことも必要となる。
ここで厄介なのは、顧客が取扱説明書や契約書の類をまったく読まないことだ。小さな活字それ自体が、顧客にとってはわずらわしい体験なのである。そのため、顧客にとって大事なポイントは、契約書のもっとも見えやすい位置に書かなければならない。補足説明欄に記載するのは論外である。
また、製品のデザインについても、細心の注意を払わなければならない。たとえば、あまりにも多くのボタンがところ狭しと並んでいるリモコンは、プロダクトデザインの失敗だと言えるだろう。多くのユーザーにとって、「不要」なボタンが多く並んでいることは、気持ちのよい体験ではないからだ。
顧客が抱える不満の大半は、商品やサービスが顧客のもとに問題なく届けられたあとに起きている。企業はこうした事情を踏まえたうえで、製品やデザインを練り上げなければならない。
最終的に顧客の不満やロイヤルティ低下を招くのは、商品やサービスの欠陥ではない。マーケティングや営業上のコミュニケーション不備にこそ、真の問題がある。なぜなら、顧客の不満やロイヤルティ低下は、企業に「意図的に」騙されたと感じるときに生まれるものだからだ。
CXを強化する上では、顧客の不満が生じそうな箇所をあらかじめ特定し、トラブルが起こる前に、予防的な措置を取ることが肝要だ。また、それでもトラブルが起こった場合に備えて、顧客が苦情を申し立てやすい環境もつくっておくべきである。そうした仕組みがない限り、ほとんどの顧客はわざわざ苦情を申し立てたりはしないからだ。
苦情を申し立てられること自体は決して悪いことではない。むしろ、顧客の苦情に対して、企業が満足のいくような対応をとった場合、顧客のロイヤルティは20~50%も向上するということが、データから明らかになっている。
サービスがすばらしいことと、最高の顧客体験とは同義語ではない。最高の顧客体験を届けるための第一歩として、ここではサービスの機会損失を見積もる方法を紹介する。
いくらCXを強化しても、収益性というかたちでは、すぐに結果はあらわれない。そのため、CXの見直しに投資してもらうためには、説得力を持った数字を提示しなければならない。
このとき、役に立つのが「顧客損失モデル」だ。顧客損失モデルとは、
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