東京都では、1980年代後半から超高層マンションの建設が増えはじめた。とくに、2020年の東京オリンピックの開催にともない、湾岸エリアやその周辺にある超高層マンションへの注目が高まってきている。そのほとんどが賃貸ではなく分譲なのは、居住環境の利便性だけではなく、不動産投資や相続税対策としてもメリットが大きいからだと見られる。
だがその一方で、超高層マンションならではの問題がほとんど語られていない。超高層マンションの場合、非常時に高層階で身動きが取れなくなる「高層難民」のリスクが常につきまとう。くわえて、大量にいる区分所有者の間で合意形成ができなかったり、維持管理費を滞納する人が多かったりという理由で、必要な修繕がされなくなる可能性も十分考えられる。
また、湾岸エリアに超高層マンションが集中しているのは、国と自治体がその区域の都市計画規制を大幅に緩和しているという事情も大きく関係している。都心居住の推進と市街地の再開発のため、容積率の緩和などを積極的に進めてきたからだ。
たしかに市街地の再開発には公共貢献というメリットもある。しかし、東京都が規制緩和を行なった区域はあまりにも広く、住宅の供給量をうまくコントロールできていない。しかも自治体によっては、超高層マンションの建設に私たちの税金から多額の補助金が出ている場合すらある。
住宅の過剰供給を続けていけば、いつか需要と供給のバランスが崩れてしまう。そうならないように、長期的な視点から都市計画・規制緩和のあり方について議論しなければならない時期にさしかかっている。
住宅過剰は東京だけの問題ではない。大都市の郊外や地方都市でも、新築住宅がつくられ続けている。
しかも農地や樹林地を宅地化し、野放図に新築住宅をつくってしまったため、悪臭や水質悪化といった環境汚染が発生。くわえて、人口の急激な増加により、小学校が足りなくなるなどの問題も起こっている。将来的に人口密度が低下したとき、行政や民間のサービスが行きとどかなくなることも懸念されるところだ。
このように郊外や地方都市で新築住宅の建設が進んでいるのにも、都市計画の不備が関係している。各自治体は少しでも地域の人口を増やしたいため、本来は市街化を抑制すべき区域についても建築規制を緩和し、住宅を誘導してきた。それが農地の無秩序な宅地化につながり、新築住宅の建設ラッシュを招いてしまった。しかも結局、市街地から郊外へ人口が流出しただけで全体の人口は変わっておらず、いたずらに人口密度の低下を起こしているだけという有様である。
大都市の郊外や地方都市で建設されているものの多くは賃貸アパートだ。これは、高齢化や後継者不足により農業をやめてしまう農家が、節税目的で農地を賃貸アパートへ転用する事例が増えてきているためである。とくに、大家が建てた物件を業者が一括で借りあげ、長期間家賃を保証する「サブリース」という仕組みを使っている場合が目立つ。
ただ、大家にはリスクがないと思われがちなサブリースだが、家賃が減額されたり、リフォームや修繕は指定した業者でやらなければいけなかったりと、最終的には不動産会社側が損をしないような仕組みとなっている。このため、入居者が見こめないような場所でも積極的に賃貸アパートが建ち、空き部屋がどんどん増えているというわけである。
このような状況を踏まえると、規制緩和をしてまで賃貸アパートの建設を許可する必要があるのかは大いに疑問だ。
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