なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか

人間の心の芯に巣くう虫
未読
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なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか
ジャンル
出版社
インターシフト

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出版日
2017年02月25日
評点
総合
4.3
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

あらかじめ伝えておこう。このタイトルはややミスリードだ。本書は社会的・政治的な意味での「保守化」について書かれたものではない。だが、人間の思考や行動を規定しているもの――人間の心の芯に巣くう虫――の正体を明らかにし、なぜ保守的な行動を私たちが好むのかを説明しているという点で、非常に興味深く、刺激的で、心躍る一冊である。

人間の心の芯に巣くう虫、それは「死への恐怖」だ。心理学者として、30年以上研究に従事してきた著者たちはそう断言する。本書によれば、人間の行動や思想はほとんどすべて、死からの逃避行に他ならない。私たちは「死」を自覚しはじめた瞬間から、意識的にせよ無意識的にせよ、死をできるかぎり遠ざけるためのラットレースに参戦することを強いられている。それが著者たちの主張であり、本書の主題だ。

本書が明らかにするのは、死の恐怖を管理しようとする努力が、人間の営みにあたえる影響のすべてである。読み終える頃には、死という概念がこれほどまでに特別で、強烈に私たちを縛りつけていることに驚かされるにちがいない。そしてだからこそ、死を受けいれることの意味が、よりいっそう深く感じられるようになるはずである。

メメント・モリ(死を想え)という古代から伝わる警句を心から理解したければ、本書を読めばいい。「人間」に興味がある人すべてにお薦めしたい傑作である。

著者

シェンドン・ソロモン (Sheldon Solomon)
ジェフ・グリーンバーグ (Jeff Greenberg)
トム・ピジンスキー (Tom Pyszczynski)
それぞれ、スキッドモア大学、アリゾナ大学、コロラド大学・コロラドスプリングス校の心理学教授。ともに「恐怖管理理論」の提唱者であり、共同研究者として知られる。先進的な研究が評価され、アメリカ国立科学財団(NSF)の賞および助成を獲得。その成果は、現代のさまざまな動向を解読するカギとして、多数のメディアで紹介され、大きな注目を集めている。

本書の要点

  • 要点
    1
    死に対する恐怖を管理するため、私たちは「文化的世界観」と「自尊心」を必要としている。
  • 要点
    2
    死を想起することは、自分と同じ価値観をもつ人へのポジティブな反応を強め、異なる価値観をもつ人へのネガティブな反応を強める。なお、事故や失態を想起するだけではそのような現象は見られない。
  • 要点
    3
    私たちは儀式、芸術、神話、宗教を通じて、超自然的な世界観を構築している。
  • 要点
    4
    相手を見下し、同化させ、調整することで、私たちは自分たちの世界観を守っている。それでも心の平静が得られないとき、暴力と殺人が生まれる。

要約

【必読ポイント!】 恐怖管理理論とは

人間の芯には虫が巣くっている

あらゆる種の生き物には、根源的に責務が課せられている。それは生きつづけることである。しかも厄介なことに、私たち人間は、遅かれ早かれ自分が死ぬことを知っている。それが私たちに不安をもたらす元凶である。

本来、恐怖とは、差し迫った死の恐怖に対する自然な反応である。しかし、私たち人間だけが発達した自意識のせいで、迫りくる危険がない状況でも、恐怖を経験することができてしまう。

この潜在的恐怖こそが、人間の「芯に巣くう虫」である。この死に対する恐怖を管理するために、私たちは自己防衛を迫られることになった。

「文化的世界観」と「自尊心」
tommasolizzul/iStock/Thinkstock

死への恐怖に対抗するため、人間が生み出した手段は大きく分けて2つだ。ひとつは「文化的世界観」、すなわち実在の本質を自分たちに説明するためにつくり出す信念である。これがあるからこそ、人々は生きる意義を感じ、宇宙の起源を理解し、この世での価値ある行動を自覚し、そして永遠不滅を夢想することができる。自分たちの文化における政府や教育、宗教の制度や儀式にこだわるのも、世界観を築き、維持し、守っていくためだ。

死への恐怖に対抗するためのもうひとつの手段が「自尊心」である。世界観を享受するためには、自分も文化の貴重な一員だと感じる必要がある。実際、文化によってその方法はさまざまではあるものの、自尊心を求める心は万国共通だ。自尊心があるおかげで、私たちは自分たちの世界観の正しさを肯定できるし、死に対する恐怖から身を守ることができる。逆にいえば、自尊心が欠けている人間は、死の恐怖に野ざらしになってしまっている。

死への恐怖が正義の天秤を傾ける
SIphotography/iStock/Thinkstock

死を考えることが、人の営みにきわめて重要な役割を果たすという考えは古くから存在している。しかし科学的心理学の領域において、これまで死の問題はあまり重要視されてこなかった。その原因はおそらく、死がおよぼす影響は、厳格な科学的手法で理解したり検査したりできないという認識にあるだろう。

しかし、科学的手法によって、人々がどのように潜在意識上にある死の恐怖に対処するかを説明できるかもしれない。そう考えた著者たちは、被験者のひとつのグループには自分の死すべき運命を思い起こしてもらい、別のグループにはそうしないという研究をおこなった。

結果は顕著であった。判事たちに協力してもらい、キャロル・アン・デニスという架空の売春婦が起こした飲酒運転、万引き、風紀紊乱(びんらん)行為を検討し、保釈金を決定してもらった。すると、自分の死について想起させられなかったグループの判事たちは、50ドルという平均的な保釈金を課した。一方、自分の死を思い起こさせられたグループの判事は、平均455ドルという、はるかに懲罰的な保釈金を強いた。これは標準的な金額の9倍以上だ。

この実験結果からわかるのは、自分の死すべき運命について考えた判事のほうが、自分たちの文化に規定されている「正しいこと」をしようとするということである。売春婦と疑われる人物に対して極端に高い保釈金を決定することで、倫理的犯罪に「ふさわしい」罰を与えようとしたのだ。

死だけが特別である

死を想起することは、自分と共有する価値観を守る人に対するポジティブな反応を強め、逆に異なる価値観をもつ人に対するネガティブな反応を強める。

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要約公開日 2017.06.25
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