かつて「ビジネスホテルは、誰が経営してもつぶれない」と言われ、さほど経営努力をしなくても安定的に成長することができた。しかし、1990年代以降はバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災などが逆風となり、多くのホテルが経営不振に陥った。実際、最近でも放漫経営による倒産が相次いでいる。
こうした逆風に耐え切れず経営不振に陥ったホテルには、設備投資を怠っていたり、PRに消極的であったりなど、いくつかの共通点がある。だが、もっとも大きな原因は、お客様の声を拾えていないことだ。
川六もリーマンショックによって売上を落としたが、お客様と積極的にコミュニケーションを取って、ホテルに対する要望、希望、不満といった「生の声」を拾い、改善するように努めた。その結果、売上が半減するホテルが続出するなか、わずか10%減で踏みとどまった。このように、マイナスを最小限に留めることができたのは、お客様の声にもとづく改善を続けてきた成果である。
「お客様からいただく声」は、従業員を大きく変えるきっかけになる。お客様からいただくお褒めの言葉が増えるほど、彼らの自信も大きくなっていく。
川六では、「お客様満足度向上委員会」を設置し、お客様から寄せられた声を改善に役立てている。かつて、お客様アンケートは旅行代理店に一度回収されてしまっていたが、現在は直接回収してお客様の声をダイレクトに集めている。
とはいえ、アンケート用紙をフロントや客室に備えておくだけではお客様に書いていただけない。そのため、川六ではチェックイン時に「アンケートにご協力ください」と笑顔でお願いするようにしている。お願いのしかたとアンケートの回収率は比例しており、お願いのしかたが丁寧なスタッフほど、アンケートの回収率は高い。回収した枚数は人事評価に紐づけられ、多くアンケートを回収した社員は評価に加点される仕組みになっている。
やはり、お客様から「ありがとう」と言われるのはうれしいものだ。「ありがとう」と言われれば、従業員は「もっとお客様に喜んでもらいたい」と考えるようになり、積極的に改善案を出すようになる。お客様の喜ぶ声が、スタッフを変えるのだ。
一般的にビジネスホテルの経営では、少数精鋭主義による経営の効率化が重視される。しかし、従業員の対人的サービスに関しては、効率化はあてはまらない。川六では、バックヤードでデジタル化を進めつつ、お客様には徹底したアナログ対応による接客をするようにしている。
また、川六は同規模のビジネスホテルに比べて、スタッフの人数を多くしている。接客の時間を長く取ろうとすると、どうしても人数が必要になる。現状の人数よりも1割程度少なくしても、ホテルを回すことはできる。しかし、接客の質を維持するためには、ある程度以上の人数が必要不可欠なのだ。
お客様のご要望にはできるだけお応えするべきだ。しかし「できないこと」もある。
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