まずは、戦略と混同されがちな4つの概念との違いに着目し、戦略が持つ特徴的な側面を明らかにしていく。
概念の1つ目は「計画」である。たとえば、「来年の戦略は、新しい消費者を獲得するために商品Aを新規に市場導入する」といったとき、「来年の戦略」を「来年の計画」と言い換えても意味は通るため、両者を混同しやすい。しかし、計画の立案を導く方針や指針があってこそ、無理や無駄のない計画がつくれる。この判断基準を示す役割として期待される、計画の上位概念こそが戦略である。
2つ目は「目的」である。たとえば、「我々の戦略は消費者満足の最大化である」や「どこよりも安い価格で提供するのが戦略である」といった例では、戦略と目的は同義となりうる。しかし戦略は、目的をどうやって達成するかを示すべきもので、目的そのものではない。
3つ目は「ヴィジョンや理念」である。ヴィジョンや理念は、個人や組織の究極的な達成や存在理由を示すものである。「すべての消費者の満足のために」などと、説明を要さないほどに絶対的な善であることが多い。同時に、ヴィジョンや理念はそれをどう達成していくかの直接的な方法を指し示すものではない。ここが戦略との大きな違いである。
4つ目は「方針」である。戦略が「方針」あるいはより具体的な「指針」であるという考え方は、戦略がどう機能するかという側面をうまく捉えている。広く見れば、戦略は方針のひとつだと考えてもいい。そこで本書では、戦略は、目的を達成するためのなにがしかの方向性や選択肢を示す「方針・指針」であると考える。
戦略の定義と同じく、戦略がなにに貢献するかが曖昧なままにされていることも少なくない。戦略の存在理由を問うことで、曖昧な定義をより明確にできる。
戦略が必要な第1の理由は、「達成すべき目的があるから」である。逆に言えば、達成すべき目的がなければ、戦略は必要ない。そして、目的をいかに明確にするかが、その後の行動計画と有効性にきわめて大きな影響を及ぼす。
たとえば、サンプリング(試供品の提供)の目的は、「1人でも多くの消費者に製品を渡すこと」ではない。これではサンプリングという行動を記述したに過ぎない。製品の非使用者にその製品を体験してもらいたいのか、ブランドの使用者に新しいアイテムを追加使用してもらいたいのか、競合ブランドの使用者に製品体験を通して自ブランドの優れた点を認識してもらいたいのか。目的によって最適なサンプリングの仕方は異なるはずだ。
戦略が必要な第2の理由は、「資源には限りがあるから」である。もし資源が無限であれば、考えつくことをすべて実行すればいいのだから戦略は必要ない。しかし、資源は常に有限である。限界があるからこそ、達成手段を取捨選択しなければならないし、そこに資源の使い方の巧拙が出てくる。ここに、戦略を持つことの意味が生まれるのだ。
すなわち、戦略とは「目的達成のために資源をどう利用するかの指針」となり、本質的には「目的」と「資源」のふたつの要素に集約される。
組織やチームが行動するとき、目的を明確にすることは当たり前のように思える。ところが、戦略的な失敗の大部分を目的の不明確さが占めているケースは珍しくない。
いい「目的の設定」がなければ、どこをめざすべきかが不明確になり、遠回り、寄り道、逸脱が頻発する。
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